多様性と効用関数

去年12月24日に行った講義で、産業内貿易の利益は多様性の利益にあると説明しました。講義前半で説明した部分均衡分析や一般均衡分析による貿易利益の説明では、製品をいかに安く大量に消費できるかということが貿易による経済利益の重要な要因でした。これは、消費者の効用水準が下図の効用曲線で示されるように、財の消費量によって決まっていたことにその原因があります。

 上図が示すように、消費者は財の消費量が増えるほど効用水準が高くなります。このため、財の価格が低くなり消費にかかる費用が低くなるほど消費者は財の消費量を増加させることができ、そのために効用水準は高くなるわけです。数学的に言うと、上図のような効用曲線は一階の微分が正(消費が増えるほど効用は増加=限界効用が正)、二階の微分が負(消費が増えるほど限界効用の増加分は小さくなる=限界効用逓減)になる特徴を持つため、財の消費量と効用水準の関係を示す効用関数は次のような数式で表現されることが一般的です。

このような効用関数はミクロ経済学ではよく利用されている関数型で見たことがある人も多いと思いますが、このような効用関数では消費量のみが効用水準に影響を与えており、消費の多様性が効用に与える影響は考慮されていませんでした。例えば、鞄という財の効用関数がこのような形である時、消費者にとっては消費する鞄の個数のみが重要で、1種類の鞄を10個消費しようが、10種類の鞄を1個ずつ消費しようが、消費者の得る効用水準は同じとなるのです。しかし、実際の消費者の感覚から言うと10個鞄を所有するのであれば、同じ鞄を10個保有するより、種類の違う鞄を1個ずつ所有する方が、効用は高くなるものではないかと考えるのが普通です。

このような、消費者の多様性と効用水準の関係を考慮することができる効用関数については、次のような形が考えられます。

 この効用関数では、消費者はn種類の製品(鞄)を消費しており、xiは種類I (i=1~n)の製品の消費量を示しています。各種の製品xiに関する効用関数は通常の限界効用正、限界効用逓減の効用関数です。つまり、各種類の鞄の消費についてはこれまでと同じ効用関数で、鞄全体の消費から得られる効用水準は各種類の鞄の消費から得られる効用水準の合計となると考えるのです。
 この効用関数では、1種類(n=1)の鞄を10個(x1=10)消費するのと、10種類(n=10)の鞄を1個(xi=1)消費するのとでは消費者の得る効用水準は異なります。前者の場合は、効用水準は10の2分の1乗(=ルート10)、後者の場合の効用水準は10となり、後者の方が消費者の得る効用水準は高くなるというわけです。

各製品の消費量xiが同量のxとなると仮定して、この効用関数を変形すると次のようになります。

この式を見ると総消費数(消費する製品数n×各製品の消費量xの合計)が一緒であれば、消費する製品数nが大きくなるほど効用水準が高くなることがわかります。

このような効用関数を設定することによって、消費の多様性の向上が消費者の経済厚生を改善することを示すことができるわけです。

今日はこの辺で