開発援助の有効性に関する実証分析

澤田康幸・戸堂康之(2010)「途上国の貧困削減における政府開発援助の役割」RIETI(経済産業研究所) Policy Discussion Paper Series 10-p-021を読みました。

(要旨)
本稿では、RIETI プロジェクト「開発援助の経済学」研究会の成果を踏まえ、政府開発援助と経済成長・貧困削減の関係についての研究を概観し、今後の展望を行う。途上国への国際的な資金の流入については、一般に経済発展に伴ってODA(政府開発援助)から FDI(直接投資)や銀行貸付の増加へとシフトする傾向がみられる。例えば、依然ODA が大きな比重を占めている南アジア地域でも、1980 年初頭のインドの経済自由化以降は銀行貸付やFDI・株式投資が増加している。こうした大局的な国際資金移動の観点から、本稿においては、ODA が貧困削減を達成するために必要と考えられる、三つの必要条件について論ずる。第一の条件は、ドナー側の意思決定の問題として、相対的に発展した国ではなく、貧困が重要な課題となっている国々に対して援助が割り振られているということだ。二つ目は、直接にであれ間接的にであれ、ODA が受益国の経済成長を促進する有効なメカニズムを持っていなければならないことである。そうすることによって経済成長を通じた貧困削減が達成されうる。三つ目は、ODA という国際資本移動において、それにかかわる取引費用が適正な水準に抑えられていることである。そうしなければODA の効率性は妨げられてしまう。特に第二の観点に関しては、既存の実証研究において、FDI や国際貿易の経済成長促進効果を支持する研究が多い一方、開発援助が経済成長を促進する効果は明確には見出せないという見方が主流になっている。ただし、われわれの研究会の成果によれば、第二の必要条件に関連して、譲許的借款の経済成長促進効果や技術協力援助の生産性改善効果がみられる一方、第三の必要条件については援助氾濫が成長の制約となることが実証的に支持されており、東アジア諸国サブサハラアフリカ諸国における政府開発援助効果の違いがこれらの要因から説明できる可能性がある。さらに、第二の必要条件については、日本の開発援助には日本からのFDI を促すという「バンガード(先兵)効果」が見出されている。これらの研究の成果は、援助、FDI、貿易が三位一体となった日本の経済協力、いわゆる「ジャパン・ODA モデル」を実証的に支持するものである。本稿では、これらのモデル・ 仮説のみならず、三つの必要条件に関わる様々なエビデンスを、既存研究に基づきながらまとめている。

経済産業研究所では東大の澤田康幸准教授をリーダーとした「開発援助の経済学」研究会で開発援助の有効性に関する様々な研究がおこなわれているが、今日紹介するDiscussion paperは、その成果の一部をまとめたモノです。このPaperでは、ODA(政府開発援助)が途上国の貧困削減のために機能する条件として次の3つを挙げている。

1.援助の配分が世界の貧困削減と整合的であること  開発援助が世界の貧困削減に役立つためには、貧困がひどい国ほど多くの開発援助が配分されなければならない。

2.援助が経済成長を促進するメカニズムを持っていること  開発援助が、ただの援助供与国から受入国への所得移転に終わっては、貧困削減の解決にはつながらない。貧困削減の一番の解決法はその国の経済を成長に導くことであり、経済援助が国内投資の促進や受け例国への外国企業の投資を促して、援助受け入れ国の経済成長を引き起こすものでなければならない。

3.開発援助にかかわる取引費用が低いこと  開発援助は単なる国際間の所得移転ではなく、援助受け入れ国は、開発援助を受け入れるたびに援助実行のための取引費用を負担している。この取引費用には、援助プロジェクトを受け入れるまでの行政的手続きのコスト、援助プロジェクト実行の行政コスト、実施後の成果報告の手続きなど様々なものがある。これらの取引費用は、援助プロジェクトが多いほど増加していき、援助受け入れ国の行政能力を超える援助プロジェクトが実施されてしまうと、開発援助の実効性が大きく損なわれることになってしまう。このため、開発援助は、受入国の負担する取引費用をなるべく低くするものでなければならない。

Paperでは、過去の実証研究などの結果などからこれら3つの条件に関して検証を行っている。

開発援助に関しては、イースタリーの「傲慢な援助」などで、その有効性について強い批判が存在している。重要なことは、単純に先進国から貧困国にお金を渡せば、貧困国が貧困から脱出できるなんてことはあり得なく、いかに有効に貧困国の成長につながる資金の使い方をするかということである。そのためには、過去の経験や実績を詳しく検証しなければならない。このPaperは、貧困国に対する援助に関するデータを検証することによって、これまで行ってきた援助が有効に機能したのか、今後どのような援助の仕方が貧困削減に有効なのかを分析できることを理解する上で参考になるPaperだと思います。開発経済学に興味を持っている人に読んでもらいたいPaperです。

今日はこの辺で