外国人労働者受け入れについて〜受入拡大と国内の労働環境改善について

前回の続き

景気回復に伴う人手不足を受けて、外国人労働者の受け入れの拡大に関する記事が目立ってきた。

日本経済新聞2月15日付3面より

人手不足、経済に足かせ、保育所建設、入札不調、開園遅れ、トラック、荷物さばけず委託。
景気回復に伴う人手不足が日本経済の波乱要因になってきた。景気下支えを狙う公共工事は遅れが目立っており、政府は14日、予算執行に異例の期限目標を導入すると決めた。保育所建設が遅れ子育て中の家庭の生活設計に影響を与えたり、バスやトラックの運転手不足でヒトやモノの流れが滞るケースも出ている。政府は外国人活用も視野に入れるが、議論は生煮え。人手確保策は決め手を欠いている。
(中略)

麻生太郎財務相は14日、2013年度補正予算に数値目標を設け各省庁に確実な執行を促す考えを示した。
 背景にあるのは人手不足を主因とする公共工事の執行の遅れ。岩手県内では昨年4〜12月までの工事入札のうち40%が不調に終わった。政府は公共工事の価格を引き上げ現場で働く人の賃金を増やせるようにしたが、人材が集まる保証はない。13年度補正予算は4月の消費増税後の景気を下支えする政策だが、想定通りの効果を生めるか微妙だ。
 工事現場の人手不足は、働く母親の足を引っ張りかねない。待機児童数が全国の市区町村で最も多い東京都世田谷区。入札不調で認可保育所が予定通りに開設できない事態が起きている。
(中略)
「運転手が足りない」。千葉県を中心に路線バスを運行する小湊鉄道(千葉県市原市)の石川晋平社長は嘆く。県境を越えて長野県や群馬県ハローワークにまで足を伸ばしたという。1人の運転手当たりの負担が増せば路線の維持が難しくなる。「希望者に大型免許の取得費用を貸し、何年か勤めれば一部を免除するなどして養成を進めている」(石川社長)が即効性には乏しい。
 トラックなどの物流でも人手不足は深刻だ。名古屋を地盤とする大宝運輸は約400台のトラックを保有しているが、うち約40台を稼働できない状態が続いている。消費増税に伴う駆け込み需要もあって荷動きは堅調だが、さばききれない荷物の輸送は他社に委託せざるをえず、商機を逃している。
(中略)
少子高齢化による人手不足を懸念する声はかねて根強かったが、デフレ不況が問題を覆い隠してきた面がある。雇用が増え、賃金が上がるのは本来、日本経済にとって望ましい。ただ、労働力人口の減少が加速するなかで、成長のボトルネックにもなりつつある。
人手不足、経済に足かせ――人材確保策なお手探り、外国人活用、議論生煮え。
(前略)
働き手を増やす対策として外国人の受け入れ拡大策も浮上している。建設業や製造業で途上国の人を最大3年受け入れる技能実習制度の職種拡大や期間延長が焦点だ。
 技能実習制度を巡っては、経営者が実習生のパスポートを取り上げ、賃金を払わないといった不祥事も相次いでいる。政府内には外国人犯罪の増加を懸念する声もある。足元の人手不足で、半ば見切り発車で外国人活用拡大論が浮上している段階。中期的な労働需給を見据えた制度設計の議論にはなっていない。

日本経済新聞2月20日付5面より

政府・自民方針、介護分野で外国人受け入れ拡大、EPA・技能実習活用。
政府・自民党は、介護の分野で外国人労働者の受け入れを広げる検討に入った。高齢化が進む中で介護職員が増えないと、2025年度に100万人もの人手不足が見込まれるため。経済連携協定(EPA)での介護福祉士候補生の受け入れに加え、技能実習制度の対象拡大などを視野に入れる。
 19日に開いた自民党の関連の特別委員会で、介護での外国人労働者受け入れ拡大の方向を確認した。介護職員の数は現状の149万人(12年度、推計)から、団塊の世代が75歳以上となる25年度には249万人が必要と見込まれる。10年余りで100万人増やさないとならないが、新卒の採用や他業界からの転職だけでは到底まかなえない。
 そこで外国人労働者の活用を検討する。08年度以来、EPAに基づく介護福祉士候補生をフィリピンやインドネシアから累計1100人余り受け入れているが、国ごとの年間上限300人には届いていない。14年度にはベトナムからの受け入れも新たに始めるのを機に、候補生が働けるよう介護施設に協力を促す。
 EPA経由では介護福祉士の国家試験に合格しないと日本で働き続けられない。このため発展途上国への技術移転を名目とした技能実習制度の対象に、介護を新たに加えることなども検討する。

とりあえず目先の人手不足を外国からの労働者の受け入れによって埋め合わせようというのはよくある発想だが、長期的に見るとそれは安易すぎるという指摘もある。

日本経済新聞2月21日付21面より

建設人手不足 技能伝承、途切れる恐れ――外国人活用で悩む。
「最初は『アブネー』って日本語から教えたんですよ」。一昨年の夏からベトナム人労働者のグエン・ミー・スンさんを受け入れた鉄骨加工業の増山鉄工(茨城県取手市)。バブル期以降初めて受注を断るほどのフル稼働が続く工場で、増山博偉専務は鋼材溶接を次々とこなすスンさんを頼もしそうに見つめた。
 37歳のスンさんはベトナムの妻子に仕送りする出稼ぎ。報酬は高校を卒業した新入社員並みの月18万円程度だが「若手よりよっぽど積極的に仕事を覚える」。スンさんも「ベトナムより給料が高いし、技術も覚えられる」と満足げだ。だが技能実習制度の滞在期間は3年。帰国の日は刻々と迫る。
 建設業で働く外国人実習生は約1万5000人。本来の目的は新興国への技術支援だが、現場では人手不足を補完する貴重な労働力として重宝されている。政府も東京五輪に向けた緊急措置として実習期間を5年に延長するなどの規制緩和策を模索し始めた。
 だが現場では異論もくすぶる。外国人活用を推進した茨城県鉄構工業協同組合(水戸市)でも奥津典一理事長は「一時的な労働力を外から手当てするより国内での技能伝承を途切らせないことが先では」と懐疑的な立場だ。福利厚生の不備など若手が定着しない理由を解決すべきだと訴える。 事態は切迫している。熟練工が集中する団塊の世代は65歳を超えて現場から去りつつある。「若手への技能伝承を急がないと、中堅が退職する10年先に現場が持たなくなる」(国土交通省)。危機感を募らせた同省は1月から建設産業の活性化を話し合う有識者会議を開き議論を始めた。
 会議で指摘されたのは若者離れの原因になっている未整備な労働環境。厚生年金や雇用保険など社会保険への加入率は製造業の9割に対し、建設業は6割程度とされる。国交省は2月に公共工事の見積もり基準となる「公共工事設計労務単価」を約7%引き上げ、その中に社会保険加入を促す費用を含めた
 業界も手をこまぬいてはいない。全国鉄筋工事業協会(東京・中央)など各専門工事業者の業界団体は昨秋、材料費や労務費以外に雇用保険料など法定福利費を別枠で計上する「標準見積書」を作成。鉄筋加工業の小黒組(東京・江東)などが活用を始めている。
 日本建設業連合会の中村満義会長は昨秋、不動産協会の木村恵司理事長と会談し、技能者の処遇改善にともなうコストアップへの理解を求めた。建設と不動産、両業界のトップが会談するのは初めてという。
 復興需要や公共投資、消費増税前の駆け込み需要――。建設現場は対応に追われるが、本当に人材不足が深刻になるのはその先だ。ベトナム人を雇用した増山鉄工も将来を見据え、今春は新卒2人を採用する。
 日本総研の湯元健治副理事長は建築着工がすでにピークを超えたと指摘。そのうえで「外国人実習生の拡大はあくまで小手先の対応。労働人口が日本全体で減っていくなかで人材をどう確保するか。外国人の本格的な活用も含めて真剣に議論するタイミングにきている」と話している。

外国人の受け入れ拡大を検討するだけでなく、国内の労働環境拡大により若者の就業を促すこともしっかり考えないといけないというわけやね。

今日はこの辺で