移民による財政貢献

しつこいようですが、外国人労働者に関する話の続きです。

前回の記事で、社会保障を目的とする移民を抑制するために英国やドイツ・スイスなどの国で移民の受け入れを制限しようとする動きが生じていると書きました。
このような動きは、外国人労働者は税金を納めずに失業給付などの社会保障の恩恵を受けており、このような外国人労働者が多いと財政が悪化し現行の社会保障制度を維持できなくなるのではないかという不安から生じているものだが、イギリスにおける研究ではこのような認識は間違っていると示すものがある。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのダストマン教授らによる研究では、イギリスの移民はネイティブ(英国民)よりもイギリスの財政に貢献していることが示されています。

VOXよりThe fiscal effects of immigration to the UK
(要旨)
The immigration debate has focused on immigrants’ net fiscal impact – whether they receive more in welfare payments and other benefits than they pay back in taxes. This column summarises recent research showing that – contrary to popular belief – immigrants who arrived in the UK since 2000 have contributed far more in taxes than they have received in benefits. Compared with natives of the same age, gender, and education level, recent immigrants are 21% less likely to receive benefits.
(訳)
移民に対する議論は、移民の財政に与える影響−彼らは納税以上の社会福祉等の財政的恩恵を受け取っているのかどうか−に集中している。このコラムはそれに関する最近の研究を要約している。その結果は次のようなものだ。民間に広まっている意見に反して、2000年以降に英国にやってきた移民は受け取った社会保障に比べてはるかに多くの納税をしている。移民が受け取る社会保障は、年齢、性別、教育水準が同様な英国民に比べて21%少ない。

さらに、英国の国立経済社会研究所(NIESR)のLisenkova氏などの研究では、英国民と移民の年齢構成の違い(移民の方が若年層が多い)ことを考慮すると、移民を制限しようとする英国の現政権の政策は長期的に財政に対して悪影響を与えると述べています。

Lisenkova-Merette-Sachez-Martinez(2013)The Long Term Economic Impacts of Reducing Migration: the Case of the UK Migration Policy
(要旨)
This paper uses an OLG-CGE model for the UK to illustrate the long-term effect of migration on the economy. We use the current Conservative Party migration target to reduce net migration “from hundreds of thousands to tens of thousands” as an illustration. Achieving this target would require reducing recent net migration numbers by a factor of about 2. In presented simulations, we compare a baseline scenario, which incorporates the principal 2010-based ONS population projections, with a lower migration scenario, which assumes that net migration is reduced by around 50%. The results show that such a significant reduction in net migration has strong negative effects on the economy. The level of both GDP and GDP per person fall during the simulation period by 11.0% and 2.7% respectively. Moreover, this policy has a significant impact on public finances. To keep the government budget balanced, the labour income tax rate has to be increased by 2.2 percentage points in the lower migration scenario.
(訳)
この論文では、移民が英国にもたらす長期的影響をOLG-CGE model(世代重複・動学的応用一般均衡モデル)を用いて示している。例として、このモデルでは、移民の純流入を「数万人から数十万人」減少させることを目標とした現在の保守党政権による政策を分析の対象にしている。この目標を達成するためには、移民の純流入の減少を現在起こっている数のさらに約2倍にする必要がある。シミュレーションによって、我々は2010年を起点とする国家統計局による人口予測を組み入れたベースラインのシナリオと、移民の純流入が約半分に減少する少数移民のシナリオを比較している。その結果、このような移民の純流入の大幅な減少は、経済に対して強い負の影響をもたらすことがわかった。シミュレーションを行った期間においてGDPおよび一人当たりGDPは、それぞれ11.0%と2.7%減少する。さらに、この政策は財政に大きな影響を及ぼしている。少数移民のシナリオにおいては、政府予算の均衡を保つためには労働所得税を2.2%上昇させなければならない。

このような結果が生じる理由は、英国民に比べて移民は若年層が多いために、移民が減少すると、国内の生産が減少することに加え、高齢化が急速に進むため社会保障を維持するための財源が必要となるからである。生産は減少するのに対し、社会保障支出は増加するわけだから、財源の不足分は増税によって賄われることになる。移民の減少は労働供給の減少を通じて国内の賃金を上昇させるが、社会保障維持のための増税分を考慮すると税引き後の労働所得は減少することになってしまうのだ。

このような研究結果は、少子高齢化が進む中財政状況の悪化が進む日本にとっても重要なものだ。移民の受け入れは社会保障の財政を悪化させるわけでないし、むしろ社会保障財政の改善を実現するために移民受け入れは有効となり得るものなのである。

その他、移民に関する影響についてはここなどでも詳しく述べられているので興味のある人はどうぞ

今日はこの辺で