貿易利益をもっと詳しく

今日は、10月25日の講義で説明した貿易利益について、より詳しく解説したい。

図1内の左図は、ある財市場について閉鎖経済均衡時の市場均衡における各余剰の大きさを示したものである。この時の市場価格は20、この財の国内における生産量と消費量は200単位となっており、消費者余剰の大きさはABC、生産者余剰の大きさはBCD、社会的余剰の大きさはACDとなる。

この国が自由貿易を行い、国際価格が10となるとき、自由貿易均衡は図1内の右図となる。このとき、国内の消費量は300単位、生産量は100単位となるため、輸入量は200単位となる。消費者余剰の大きさはAGEとなり、閉鎖経済時のABCよりも大きくなる一方、生産者余剰の大きさはEFDとなり、閉鎖経済時のBCDよりも減少する事となる。しかし、社会的余剰の大きさはAGEとなり、閉鎖経済時のACDを上回ることになるため、閉鎖経済状態から自由貿易に転じることはこの国にとって経済的に望ましいと結論付けることができる。これは、自由貿易の開始による生産者余剰の減少を消費者余剰の増加が上回るためにおこったものである。閉鎖経済時の社会的余剰と自由貿易均衡時の社会的余剰との差CFGが自由貿易によってこの国が得た貿易利益となる。

では、なぜ自由貿易の開始による生産者余剰の減少よりも消費者余剰の増加の方が大きくなるのだろうか?図2を用いてより詳しく分析してみたい。

図2において、自由貿易開始による生産者余剰の減少分の大きさはBCFHで、消費者余剰の増加分の大きさはBCGEで示されている。閉鎖経済時、この国では価格20で200単位の財が生産・消費されていたが、自由貿易の開始によって国内価格は国際価格と等しくなり10に低下する。このとき、生産者余剰の減少分は(価格の低下幅10)×(閉鎖経済時の生産量200)=2000を示すBCJE(赤線枠内の面積)よりも少なくなっている一方で、消費者余剰の増加分はBCJEよりも大きくなっていることがわかる

これは、貿易開始による国内価格の低下によって国内の生産量と消費量が変動していることから生じている。国内の生産量は、貿易開始によって生産量が200単位から100単位に減少する事になる。これは、市場価格が10に低下する事によって、限界費用が10を超える生産を行っても損失が発生するためである。このため、貿易開始による企業の利潤の減少は、?貿易開始後も生産している0〜100単位の生産に関する収入減少に伴う損失と?貿易開始によって限界費用が10を超える100〜200単位の生産をあきらめたことに伴う損失に分かれることになる。?の損失の大きさは(価格低下幅10)×(生産量100単位)=1000(BHFEの大きさ)となるのに対し、?の損失の大きさは(価格低下幅10)×(生産量100単位)=1000よりも小さいHCFの大きさとなる。このため、生産者余剰の減少分は2000よりも小さくなることになる*1

一方、貿易開始後による消費量は閉鎖経済時の200単位から300単位と100単位増加することになる。これは、市場価格が10に低下することによって、限界効用が閉鎖経済時の価格20を下回る消費も実現するようになるためである。このときの消費者余剰の増加は?貿易開始前から生産している0〜200単位の消費に関する支出の減少による純効用の増加と?貿易開始によって増加した200〜300単位から得る純効用に分かれることになる。?の大きさは(価格低下幅10)×(消費量200単位)=2000(BCJE)、?の大きさはCGJとなるため、消費者余剰の増加分は2000よりも大きくなることになる。

このように貿易開始後による消費者余剰の増加(2000以上)は生産者余剰の減少(2000以下)を上回るために、貿易によって社会的余剰は増加することになる。
0〜100単位の消費量については、生産者余剰の減少分(BHEF)と消費者余剰の増加分と等しくなるために社会的余剰の変化分はゼロとなる。すなわち、生産者の利益の減少=消費者の支出減少となっている。
次に、100〜200単位の消費については、消費者余剰の増加分HCJFが生産者余剰の減少分HCFを上回っている。この部分では、消費者の支出が(価格低下幅10)×(100単位)=1000増加するのに対し、生産者については限界費用が10を超える生産が減少するために利益の減少は1000を下回っている。
そして、200〜300単位の消費については、生産者余剰は減少することなく市場価格の低下によって消費者余剰の増加のみが引き起こされている。

このように、貿易利益については単に図形の面積の拡大だけではなく、具体的に何が起こっているかも理解しなければならないと思います。

今日はこの辺で

*1:市場価格の変化による生産者余剰の変化についてはここを参照