途上国の外貨準備積み増しによる為替レートの安価誘導の動学的経済効果

Undervaluation through foreign reserve accumulation: Static losses, dynamic gains /Voxより

(要旨)
The large foreign-exchange reserves held by emerging markets continue to stoke debate. This column suggests that reserve hoarding leads to a lower exchange rate and encourages the learning-by-doing externalities of export-led growth without the need for direct subsidies. But while this strategy can be welfare increasing, the chances of this are reduced the more countries embrace it.

(訳)
新興工業国の巨大な外貨準備は長い間議論を巻き起こしている。このコラムでは、外貨準備の積み増しは、自国の為替レートを安価に誘導し、直接的な補助金を支給することなく輸出主導による成長がもたらす学習効果を促進させることについて述べていく。このような戦略は新興国の経済厚生を改善するが、多くの国がその戦略に走ると、経済厚生の改善を得る機会は少なくなっていく。

90年代後半以降を中国や東アジア諸国をはじめとする新興工業国は、外貨準備を急速に増加させていった。これはグローバルインバランスの一因ともなっており、その原因と評価に関する研究がいろいろなされているところだが、このコラムもその研究の一つである。

新興国の外貨準備積み増しの理由については、アジア通貨危機の様な外国資本の急速な流出による通貨危機を防ぐための備えであるという意見と、新重商主義的な輸出主導の経済発展戦略を実現するためであるという意見が有力だが、このコラムでは、新重商主義的な輸出主導の経済発展戦略の観点から新興国の外貨準備積み増しを評価している。

このコラムでいう外貨準備積み増しによる自国通貨の安価誘導は、国内の非貿易産業から輸出産業への生産シフトをもたらすための手段だと述べている。なぜこのような輸出産業への生産シフトをもたらす必要があるのかというと、輸出産業には累積生産量が増加するほど生産性が高くなるという学習効果が存在しているからである。学習効果の様な外部性が存在しているとき、市場均衡では輸出産業は社会的最適な状態と比べて過小生産となるため、通貨の安価誘導によって輸出産業への支援を行う必要があるというのだ。

通常、このような輸出産業への支援をするためには補助金の支給を考えるのが普通だが、このコラムでは、直接的な補助金政策は政府が補助金支援が有効な企業や産業を見つける能力に疑問があることと、WTOで直接的な産業支援策が許されなくなっていることから行いづらくなっており、それに代わる手段として外貨準備積み増しによる為替の安価誘導が有効だと考えている。

このような外貨準備積み増しによる輸出産業支援は、長期的には学習効果に伴う生産性向上によって政策実施国の経済厚生を改善する一方、短期的には外貨準備積み増しに伴う貯蓄の増加のための消費の減少や国内投資縮小という資源の最適配分からの歪みによる損失も伴う。このため、このような外貨準備積み増しがその国の経済厚生を改善するかどうかは輸出部門がもたらす外部性の大きさに依存することになる。

感想として、このような外貨準備積み増しを産業政策として考える研究というのは初めてみたので少々驚いた。

ただ、90年代後半以降の新興国の外貨準備の積み増しが、このような輸出産業の外部性を得ることを目的に行われたとは考えづらい。新興国の外貨準備の積み増しは、アジア通貨危機をきっかけに資本収支危機への恐怖がその一因であるだろうし、輸出主導についても通貨危機によって崩壊した経済を立て直すためには輸出に頼らざるを得ず、そのために為替を安価誘導しなければならなかったのが本当のところだろう。

しかし、新興国政府の考えがそのようなものであったとしても、結果として経済合理性に合致していたということはあり得る話で、そのような意味でこの研究は非常に面白いものだと思いました。

後は、実証研究でこのような外貨準備積み増しによる動学的効果を新興国が実際に得ているかどうかを検証できるかどうかだと思うのですが。。。

今日はこの辺で