市場価格の変化に伴う生産者余剰の変化について

 10月25日の講義では、閉鎖経済時と自由貿易均衡時の社会的余剰を比較することによって貿易利益を説明した、図を使うと貿易の開始によって社会的余剰が増加することは明確だが、余剰の変化について本質的なことを理解しなければ貿易利益をしっかり理解したことにはならないだろう。
 そこで、今回は市場価格の変化に伴う生産者余剰の変化とはどのようなものかについて詳しく書いてみたい。

 図1は、講義でも使った棒グラフの限界費用曲線(供給曲線)を用いて生産者余剰を図示したものである。市場価格が35,000円の時、企業は3単位の生産量までは市場価格よりも低い限界費用で生産を増加させることが可能であるため、3単位まで生産を増加させることによって利潤を増加させていくことができる。このとき、企業の販売収入=35,000(円)×3(単位)=105,000円、生産費用=10,000(円)+20,000(円)+30,000(円)=60,000(円)となり、企業の得る利潤=45,000円となるが、その大きさは図1の緑色で塗りつぶした面積に等しくなる。これが生産者余剰となる。
 企業は3単位から4単位に生産を増やすことはない。なぜなら、3単位から4単位に生産を増やすときの限界費用は40,000円となるため、生産を増やしても(限界費用)40,000円‐(市場価格)35,000円=5,000円の損失が発生するからである。
 この状態から市場価格が45,000円と1万円上昇したとする。そのときの生産者余剰の大きさを示したものが図2である。このとき、市場価格が3単位から4単位に生産を増やすときの限界費用40,000円を上回ることになるため、企業は生産量を3単位から4単位に増加しても利潤を増加することができるようになる。このため、企業の利潤を最大化する生産量は4単位となる。このときの企業の販売収入=45,000(円)×4(単位)=180,000(円)に対し、生産費用=10,000(円)+20,000(円)+30,000(円)+40,000(円)=100,000(円)となるため、企業の得る利潤(生産者余剰の大きさ)は、180,000(円)−100,000(円)=80,000(円)となり、その大きさは図2の青色で塗りつぶした面積に等しくなる。

このように、市場価格が35,000円から45,000円に上昇することによって生産者余剰は45,000円から80,000円と35,000円増加することになるが、この生産者余剰の増加は図3の?と?で示された二つの部分に分解することができる。

図3の1の部分は、市場価格が35,000円のときにすでに生産していた3単位の生産による利潤が、市場価格が10,000円上昇したために、10,000(円)×3(単位)=30,000円増加したことを示している。市場価格の上昇は販売収入の増加をもたらすため、すでに生産している財からの利潤を増加させる効果があるのである。
図3の2の部分は、市場価格の上昇に伴って生産を3単位から4単位に増加させることによって、販売価格45,000円‐限界費用40,000円=5,000円利潤が増加したことを示している。このように2の部分は、これまでの市場価格では限界費用を下回ってしまうために実現することのできなかった生産が、市場価格の上昇に伴って実現することによって新たに生じた利潤の大きさを示しているのである。
このように、市場価格の上昇による生産者余剰の変化は、すでに生産している財からの利潤の増加30,000円(図3の1)に、市場価格の上昇によって生産を増加することが可能となったことによる利潤の増加50,000円(図3の2)を加えた35,000円となるのである。
注意してほしいことは、企業の生産量が3単位の状態から価格が10,000円上昇することによる生産者余剰の増加が価格の上昇分10,000円に生産量3単位を掛け合わせた30,000円を上回ったものとなることである。市場価格の上昇に応じて企業は、以前の市場価格よりも高い限界費用での生産が可能となるために、企業は生産量を増やすことによって利潤をさらに増加させることができるのである。
反対に、市場価格が45,000円から35,000円に低下するとき、企業の生産量は4単位から3単位に減少して、生産者余剰は80,000円から45,000円と35,000円分減少する事になるが、このときの生産者余剰の減少分は、生産量4単位に価格低下幅10,000円を掛け合わせた40,000円よりは少なくなることに注意してほしい。これは、市場価格の低下によって生産量3単位までの利潤が30,000円減少する(図3の1で示された部分)が、市場価格が35,000円に低下したことに伴い企業が4単位から3単位に生産を減少させることによる利潤の減少(図3の2で示された部分)は5,000円と市場価格の低下幅よりも小さくなるためである。
このように、市場価格が上昇するときの生産者余剰の増加分は、価格変化前の生産量に市場価格の上昇幅を掛け合わせたものよりは大きくなる一方、市場価格の低下による生産者余剰の減少分は、価格変化前の生産量に市場価格の下落幅を掛け合わせたものよりは小さくなることがわかる。これは、価格の変化に応じて企業の利潤最大化生産量が変動する事によって生じるものであり、このことが貿易利益や貿易政策による経済厚生の変化を分析する上で重要なカギとなるものである。よく理解してほしい。

今日はこの辺で