R&D活動に従事した労働者の企業間移動に伴うスピルオーバー効果について

Maliranta-Mohnen-Rouvinen(2009) “Is inter-firm labor mobility a channel of knowledge spillovers? Evidence from a linked employer–employee panel”, Industrial and Corporate Change Vol.18, No.6, pp.1161-1191を読みました。

Abstract
An employer–employee panel is used to study whether the movement of workers across firms is a channel of unintended diffusion of R&D-generated knowledge. Somewhat surprisingly, hiring workers from others’ R&D labs to one’s own does not seem to be a significant spillover channel. Hiring workers previously in R&D to one’s non-R&D activities, however, boosts both productivity and profitability. This is interpreted as evidence that these workers transmit knowledge that can be readily copied and implemented without much additional R&D effort.

(訳)雇用者−被雇用者に関するパネルデータを用いて、企業間の労働移動がR&D活動によって生じた知識の意図せざる伝播の経路となるのかについて研究した。いささか驚いたことに、他企業のR&D研究所で働いた労働者を自社の研究所に引き抜くことは、重要なスピルオーバーの経路であるようには見えない。しかし、他社で以前R&D活動に従事していた労働者を、自社の非R&D活動に従事させると、その企業の生産性と利潤率は共に上昇する。このことは、これらの労働者は、以前働いていた企業で得た知識を着実に身につけており、新規に雇用した企業が追加的なR&Dを行うことがなくてもその知識を用いることができることを示している。

この論文では、フィンランドの雇用に関するマイクロデータを用いて、企業間労働移動が企業の生産性、賃金、利潤率に与える影響について分析している。フィンランドの雇用データは、企業で働く労働者の特性(年齢、学歴、短期雇用か長期雇用か、企業で従事した職種)と労働者の動き(特定の企業から離職するのか、留まっているのか、別の企業から入ってくるのか)に関するデータが整備されており、個々の労働者の動きが各企業の生産性などに与える影響を分析することが可能となっている。
 主要な結果は次のようになっている。
 1)若くて学歴が高く非R&D活動に従事する労働者が多く企業に留まるとき、その企業の生産性と利潤率は高くなる傾向がある。
 2)高年齢の労働者の離職が多い企業は利潤率を生産性が高くなる傾向がある。
 3)高年齢の労働者の多くが企業に留まるとき、その企業の生産性は低下する傾向がある。
 4)他企業でR&D活動に従事していた労働者が、新しく入社した企業でR&D活動に従事するとき、その企業の生産性と利潤率に有意な影響は与えないが、非R&D活動に従事するとき、その企業の生産性と利潤率は高くなる傾向がある。 一番大事な結果は4)で、R&D活動がもたらすスピルオーバーが企業間労働移動を経由して発生していることを示すものである。ただ、少し変わっているのは、他企業からやってきた労働者がその企業のR&D活動の生産性を高めるというよりは、R&D活動で得た知識を企業のR&D活動以外の仕事で生かすことによってその企業の利潤の生産性の向上が発生するということである。このことは、企業が他企業からR&D活動に従事した労働者を引き抜くことによって自企業の生産性を向上させようとするとき、追加的なR&D支出を講じることなく、労働者が持つ知識を発揮させることが可能であることを示している。

今日はこの辺で