イノベーションと企業存続、企業成長との関係について

元橋一之(2011)「事業所・企業統計と特許データベースの接続データを用いたイノベーションと企業ダイナミクスの実証研究」RIETI Discussion Paper Series 11-J-009を読みました。

(要旨)
本稿は事業所企業統計と特許データベースを接続して、日本におけるイノベーション活動の実態を包括的に分析するための初めての試みの結果を示したものである。2006 年時点で日本のすべての企業約450 万社のうち、1.4%の企業が特許出願を行っており、特許活動は製造業だけでなく金融・保険業や事業所向けサービス業などの幅広い分野で見られることが分かった。また、特許データを用いて企業間や産学間の連携(オープンイノベーション)と企業の生存率や成長率との関係について分析を行った。その結果、特許出願やオープンイノベーションを行っている企業は概ね生存率が高く、企業の成長率が高いことが分かった。ただし、企業存続との関係では規模の大きい企業において両者の関係が強く、企業成長については規模の小さい企業において大きく影響している。

論文内で「新規企業の設立や生産性の低い企業の廃業といった企業ダイナミクスが経済発展に重要であり、中小企業をイノベーションの源泉とみなす考え方はOECD をはじめ、世界各国で共有されているところ」と書かれているように、イノベーションが経済成長の源泉というのは多くの経済学者が共有している考えである。この論文では、日本の企業と研究開発に関するマイクロデータを用いて、研究開発活動が企業の存続と成長に与える影響を検証したものである。さらに、他企業や大学などとの研究開発活動に関する連携(オープンイノベーション)が企業の存続と成長に与える影響も分析している。
その結果は上の要旨に示されたとおりである。この結果から、企業の成長にはイノベーションが重要な役割を担っており、そのイノベーションについても自前主義ではなく、他企業や大学などの他の研究機関との協働で行っていくことがその企業の存続の確率を高め、企業成長をもたらすことが分かる。また、特許と企業存続との関係に関する分析結果では規模の小さい企業ではイノベーションと企業存続との関係が負になっていることから、イノベーション(研究開発)活動がハイリスク・ハイリターンであることも示されている。

 この結果を受けて、論文の著者である元橋氏は、リスクの高い研究開発投資を行っている中小企業に対して、金融面などでリスク吸収能力を高める政策によって、経済全体としての成長のポテンシャルを高めることにつながることと、中小企業のイノベーション政策においては、個々の企業のリスク吸収力を高める政策が大事であると同時に、企業間ネットワーク(中小企業間、あるいは中小企業と大企業)を促進するための制度的な取り組み(たとえば、中小企業に対する「新連携」支援政策)も重要であると述べている。

今日はこの辺で