ストルパー=サミュエルソン定理と先進国内の格差問題

12月23日の講義で述べたストルパー=サミュエルソン定理は、ある財の価格が上昇するとき、その財に集約的に投入されている生産要素の価格が上昇する一方で、そうでない生産要素の価格は低下するというものであった。

このストルパー=サミュエルソン定理は、最近では先進国内の格差拡大の説明として使われることが多い。
代表されるのがノーベル経済学賞受賞者であるクルーグマンの議論だ(Krugman(2008) "Trade and Wages, Reconsidered")。
クルーグマンは、中国をはじめとする新興国との貿易の拡大が、米国内における労働分配率の低下をもたらし、労働者と資本家の所得格差の拡大をもたらしていると主張する。
新興国から米国が輸入している製品は労働集約財が中心であり、新興国からの輸入の増加による労働集約財価格の低下は、ストルパー=サミュエルソン定理を考えると労働賃金の低下と資本レンタル率の上昇をもたらすと考えられるからだ。

このような、途上国との貿易が先進国内の労働者の賃金を引き下げ国内の格差の拡大の要因となっているという議論については、IMF(国際通貨基金)が2007年にOECD諸国のデータを用いて検証している(IMF(2007) World Economic Outlook, April Chapter.5 The Globalization of Labor )。

IMFは1982−2002のOECD諸国(先進諸国)のデータを用いて、輸出入財価格と労働分配率の関係について計量分析を行い、輸出財の価格上昇と輸入財の価格低下は労働分配率の低下の要因となっていることを示した。先進国の輸出財は資本集約財、輸入財は労働集約財と考えられることから、この結果はストルパー=サミュエルソン定理が現実に成立していることを意味している。

今日はこの辺で