オフショア・アウトソーシングの増加が雇用・賃金に与える影響

Offshoring, International Trade, and American Workers NBER(全米経済研究所) Reporter 2011 Number 4: Research Summaryを読みました。

外国へのアウトソーシング(外注)の増加が、国内産業の空洞化と中流階級の没落につながっているとの批判は以前からあったが、世界金融危機以後、反グローバリゼーション論者によるこの手の批判はますます過熱する傾向にある。

今回紹介するネット記事は、カリフォルニア大学バークレー校のハリソン教授とタフツ大学のマクミラン准教授によるオフショアリングと米国の雇用・賃金との関係に関するサーベイのまとめです。

  • 1982年時点では、米国多国籍企業の外国での雇用が占める割合は25%で、そのうちの90%は先進国での雇用だったが、2007年には外国での雇用が占める割合は44%に増加し、その大半が途上国での雇用となっている。これを受けて、途上国からの輸入がこの20年で倍増している。一方、1982年から99年までに米国多国籍企業の米国での雇用が400万人減少している。
  • 米国多国籍企業の海外での雇用の増加が、国内の雇用に与える影響は、どの国で雇用を増やすのかで異なってくる。先進国子会社での雇用の増加は米国内での雇用を増加させる一方で、途上国子会社での雇用の増加は米国内での雇用を減少をもたらす。
  • 途上国の賃金の変動が米国内の雇用に与える影響は、途上国子会社が行う業務と、米国親会社が行う業務が代替的か補完的かに依存する。全体的に見ると、途上国の賃金が10%低下すると、米国内での雇用は1%減少するが、米国親会社と途上国子会社が垂直的取引(部品と最終財の組み立てを分業するような関係)を行っている場合、途上国の賃金が低下すると米国内の雇用は増加する。
  • しかし、米国の製造業雇用の減少の要因の中で海外生産の拡大が占める割合はそれほど大きくない。米国製造業の国内雇用が17%減少(どの期間での減少かはわからず)した要因を分析すると、米国企業の低所得国でのオフショア生産拡大は2.4%しか占めていない。輸入増加は2%であり、一番大きな国内雇用減少の要因(12%)は資本コストの低下に伴う製造工程の機械化である。
  • 1982年から2002年までの20年間で、米国内の製造業の雇用は2200万人から1700万人に減少しているが、学歴によってその動向は異なる。大卒以下の低学歴労働者の雇用は減少し賃金も低下する一方で、高学歴労働者の雇用は増加し、賃金も上昇している。最も賃金所得が増えたのは製造業の高学歴労働者であった。
  • 米国製造業のグローバリゼーションの進展は、米国の雇用を減少させる一方で労働賃金をわずかに押し上げる効果があるが、職種によってその効果は大きくことなる。特に顕著なのは、転職した労働者の賃金の変動であり、製造業の労働者が別の製造業に転職するとき賃金は前職時より2〜4%低下するが、サービス業に転職するときは4〜11%低下する。
  • 国際貿易が労働賃金を下落させる効果は、90年代以降特に顕著になってきた。その効果は、高齢の労働者ほど大きい。

今日はこの辺で