交渉の進まないTPP

日本経済新聞3月23日付3面より

TPP9ヵ国交渉、長期化へ、日本、ルール作り参加余地――政府が状況公表。

米国やオーストラリアなど9カ国による環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の遅れがはっきりしてきた。22日の民主党経済連携プロジェクトチーム(PT)総会で、政府が最新の交渉状況を公表。焦点の関税撤廃をはじめ、21の交渉分野のほとんどで議論が遅れ気味だ。日本も早期に交渉に参加すれば、ルール作りに関わる余地がありそうだ。
(中略)
関税撤廃は9カ国が集まって議論しておらず、いまだに2国間の議論が続く。交渉参加国の間でも、隣の国が何を議論しているかすら分からない状態という。
 知的財産の交渉では、著作権や商標権をどこまで保護するかなど各国の制度が大きく異なり、議論が難航。全21分野のうち順調なのは、手続きの話が中心で各国の利害が対立しにくい「貿易円滑化」や「競争政策」程度だ。
 TPP交渉への参加が早くても今夏とされる日本にとって、交渉の遅れは望ましいシナリオ。参加後に日本が農産物の関税撤廃で自らの立場を主張したり、ルール作りに関与したりする可能性が高まるからだ。

去年あれだけ論争を引き起こしたTPPだが、実際の交渉はなかなか進展していない。これは当初から予想されていたことだ。TPPというと何か特別なもののように聞こえるが、要はFTA(自由貿易協定)の1つだ。FTA交渉として考えた場合、9カ国という多数の国、しかも地域的にも離れた国々でFTAが結ばれたケースはほとんどない。
そもそも、世界中でFTAが急速に増えていった理由というのは、世界全体での貿易自由化を交渉するWTO(世界貿易機関)が、参加国の増加と交渉範囲の広範囲化によって、交渉困難に陥ったことがその原因だ。
これに対して、FTAは、少数のそして合意の得やすい交渉範囲を共有できる国同士で交渉することができるために短期間で締結が可能となり、それが理由で急速に増加することになったのだ。
これに対して、TPPはアメリカ、オーストラリアをはじめとする先進国からベトナムやチリなどの途上国と多様な国が参加しており、そして地理的にもアジア太平洋という極めて広範囲に広がっている。まさにミニWTOと化している。これでは交渉が長期化・困難化するのも無理はない。

記事の最後では、交渉の遅れは日本がルール作りに参加するチャンスとなると書かれているが、日本が本気でTPPの中でリーダーシップを取ろうと言うのであれば、日本の権益を主張するだけでなく、世界全体の貿易・投資の自由化に対してどのようなビジョンを描くのかという構想力を描き、それを多様な国に納得させる交渉が必要となるだろう。

今日はこの辺で