続々打ち出される安倍政権の経済政策

去年末に発足した安倍政権が年末年始にかけて続々と経済政策の構想を打ち出している。そのいくつかをここで紹介しておこう。

日本経済新聞12年12月31日付1面および3面より

公的資金で製造業支援、工場・設備買い取り、官民、5年超で1兆円――補正に計上へ。
 政府は電機メーカーなどの競争力を強化するため、公的資金を活用する方針を固めた。新法制定でリース会社と官民共同出資会社をつくり、工場や設備を買い入れる。企業の過去の投資に伴う負担を和らげるのが狙い。技術革新が速い半導体や液晶パネルなどをつくる企業が手元資金を増やし、機動的に新たな設備投資をできるようにして次世代の成長基盤固めにつなげる。
 政府は5年以上かけて官民共同出資会社による資産買い入れを進め、買い入れ額は累計で1兆円超を見込む。電機のほか、産業機械や炭素繊維のメーカーにも資産売却の要望があるという。政府は国内の雇用維持や空洞化を防ぐ効果を期待するが、公的資金の活用は経営のモラルハザード(倫理の欠如)との批判を招く恐れもある。
 公的資金を使った新制度は、新政権の日本経済再生本部が制定をめざす「産業競争力強化法」(仮称)の柱とする。新法の成立は来年の通常国会以降だが、予算措置は早ければ来年1月にまとめる今年度補正予算案にまず最大1000億円を盛り込む。
 国は財政投融資(財投)機関を通じて、民間リース会社と折半出資で特別目的会社(SPC)をつくる。財投機関として日本政策投資銀行などに出資業務を担わせるか、新たな政府系機関を創設するかは今後詰める。
 SPCは企業から工場や設備を買い取ったうえで、リース契約を結んで企業に貸し出す。企業はリース料を払えばこれまでと同様に工場や設備を使えるほか、売却代金を新規の設備投資や研究開発にあてることができるようになる。
 SPCはリース契約終了時に、リース料と資産の転売額から、財投機関とリース会社に出資分を戻す。資産価格の急減で当初の出資分を返せない場合、官民が負担を分かち合う。
 政府が公的資金を使って製造業を支援するのは、製造業の雇用を支える狙いからだ。電機メーカーなどは雇用の裾野が広く、新規投資が滞って国内製造拠点を維持できなくなると雇用が大幅に減りかねない。個人消費低迷を通じて日本経済を悪化させる懸念があるため、政府は公的支援が必要との判断に傾いた。
 半導体や液晶パネルは技術進歩が速く、加工装置などの設備負担は年々増えている。米半導体受託製造大手によると、最先端の半導体を製造する工場の初期投資額は45億〜65億ドル(約4000億〜5500億円)と、2000年代半ばから倍増した。
 韓国や台湾などの海外勢と競うには、新規の研究開発や設備投資が必要。しかし、過去に投資した資産の減価償却負担が重いと、新たな投資を抑える一因となり、競争力の低下を招いた。政府はリース方式でこの悪循環を断ち切りたい考え。不振企業の財務改善にも効果が大きいとみている。
 一方、民間リース会社はこれまで、電機や産業機械、炭素繊維の製造装置をリースとして引き受けることに慎重だった。自動車と異なり、リース契約終了後に転売する中古市場がほとんどないうえ、資産価値が急激に目減りする可能性もあったからだ。公的資金はこれらのリスクを国が一部肩代わりする面もある。

公的資金で支援、資産買い取りに軸足、国民負担の恐れも。
 政府が公的資金を使って電機メーカーなどの資産圧縮を助けるのは、迅速な設備投資を促し、生産拠点の空洞化を防ぐためだ。一方、リース会社から買い取った資産価値が大きく目減りするなどして、政府が出資分を取り戻せない場合、国民負担が生じる「劇薬」でもある。
 政府は出資のほか、補助金も活用する。新製品をつくる設備や海外勢と競合する分野の最新鋭設備を導入する際、リース会社に売却したうえで借り直すことを前提に、リース会社に資産額の3分の1を補助する。
 政府は産業革新機構企業再生支援機構を通じた出資で、企業再生をテコ入れしてきたが、政府系の経営参画に難色を示す企業も多い。公的資金を使ったリースの促進は資産圧縮に照準を絞った限定的な関与にとどめ、設備集約型産業の競争力強化を促すのが特徴だ。
 政府はすでに大手電機メーカーなどと水面下で調整している。この制度を使って資産売却を進める企業としては、シャープなどが有力候補となりそうだ。
 だが、本来、民間企業が自助努力すべき分野で公的資金を活用することには、モラルハザード(倫理の欠如)との批判がつきまとう。
 半導体や液晶パネルは技術進歩の裏側で既存設備の陳腐化が速い。官民共同出資会社が買い取った資産の転売価格が想定を下回れば、国民負担が生まれる可能性がある。買い取る資産や企業の戦略などをしっかりと見極める目利きの力も求められそうだ。

簡単に言うと、政府がメーカーを生産設備の買い取りを通じて資金を供給するということだ。メーカーはリース料を支払うことによって売却した設備を使用し続けることができる一方で、売却した資金を用いて新規の設備投資や研究開発投資を実行することができるというわけだ。
政府は買い取った設備をリースしたり売却することによって設備買い取りの下を取ろうと言うのだが、設備の買い取り手が現れなければその損失は国民負担となる。
この政策の目的は、電機メーカーなどの競争力強化というのだが、その効果ははなはだ疑問だ。そもそも日本の製造業の競争力低下の要因は本当に生産設備や研究投資の資金不足が問題なのだろうか?電機に関しては、むしろエコポイントや地デジ化に応じた過大投資が問題であり、最新鋭の生産設備や研究開発によって生まれた高付加価値製品が売れなかったことがその原因ではないかと思われる。3Dテレビなんかその典型だ。このような状況で生産設備を更新したり、研究開発費が多少増えようが台湾や韓国に対抗できる競争力がつくとは思えない。
真の目的は経営不振のメーカーに対する損失の穴埋めにあることは明白だ。このようなことを公的資金で行うことには疑問を感じる。経営再建を目的とするんであれば、こんな回りくどいやり方をするぐらいならば、メーカーが難色を示そうがどうしようが産業革新機構企業再生支援機構に介入させた方がいいと思われる*1

農産輸出倍増「1兆円」 首相方針、TPP視野
 安倍晋三首相は5日、経済再生に向けた成長戦略の一環として農林水産品・食品の輸出額の目標を現状の倍以上となる「1兆円」と定め、輸出拡大策を強化する方針を決めた。世界の人口増で農林水産品の需要が伸びていることから、国内市場中心から輸出の比重をより高めた農業政策への転換を目指す。貿易立国を支える一産業として農業を育成していく狙いがある。
 首相は昨年末の産経新聞との単独インタビューで、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)について、「聖域なき完全撤廃という前提条件が変われば、当然参加ということも検討の視野に入ってくる」と発言した。今後、TPP参加を判断する場合には農業分野の強化・成長が不可欠であり、安倍内閣として国内市場だけに頼らない強い農林水産業を追求していく考えだ。
 当面は、海外市場を開拓し農家の所得向上につなげる方策を検討する。首相は、経済再生に向けた「三本の矢」の一つである「成長戦略」の柱に、農林水産分野の輸出拡大を掲げる方針だ。今月末召集の通常国会に提出する平成25年度予算案に農林水産品、食品の輸出拡大に関する予算を盛り込む方向で調整している。
 具体的には、アジア地域の中国やインドなどで経済発展に伴い嗜好(しこう)品・高級品の需要が高まっていることを踏まえ、品質が高く安全な日本の高級食材を武器に輸出促進策を強化する。
 外市場における日本の農林水産品、食品の広報強化や日本食レストランの展開などに加え、国内の各地域で農家に対する海外販売の支援活動を拡充する。(後略)
Yahoo!Newsより

現時点で、日本の農産品の国際競争力がどれほどのものかわからないが、広報強化やレストランの展開ぐらいで輸出が伸びるとは思えない。そもそも農水省は外国から安い輸入農産品が入ってくれば日本農業は壊滅するなど言っているはずなのに、そんな農産品が国際市場で通じると言うのは矛盾だと思うのだが・・・・
そういう突っ込みはともかく、広報やレストランの展開ぐらいであれば政府がやらなくても意欲的な企業がすでにやっているだろう。実際、アジアに進出した外食企業や農業関係の企業などは存在している。政府がまずやることはこのような企業が海外で直面しているビジネスに関する障害を取り除くことだと思う。本格的な輸出戦略の策定はこれからだろうが、そのような対策がきちんと入ってくるのかが注目だと思う。

日本経済新聞13年1月6日付1面

成長戦略、政府が方針案、製造業復活へ税優遇、新基金、海外進出促す。
 政府の日本経済再生本部(本部長・安倍晋三首相)が検討する成長戦略の基本方針案が明らかになった。政権の最重要課題である経済再生に向け日本産業再興プラン」「国際展開戦略」「新ターゲティングポリシー」の3つの分野の成長戦略を6月までに策定する。具体的には中小企業の海外展開を後押しする基金の創設や、税制の優遇措置を実施する特区の創設などを検討する。
 経済再生本部は安倍政権が新設したミクロ経済政策の司令塔。マクロ経済政策を統括する経済財政諮問会議と両輪で、経済政策を首相官邸主導で進める。8日に開く初会合では、成長戦略を策定する方針を確認。経済閣僚と民間有識者を集めて具体案を練る「産業競争力会議」の設置を決める。
 産業再興プランは「世界で一番企業が活動しやすい国の実現」に向けた施策を盛り込む。「日本の基幹産業である製造業の復活」を目指した設備・研究開発投資を促すため、税制の優遇措置を含めた特区創設などを検討。エネルギー、環境、医療などの成長分野で規制緩和も強化する。
 企業の海外展開を支援する「国際展開戦略」は、成長するアジア経済圏の取り込みや、戦略的な経済連携協定(EPA)の締結などを対象とする。
 新興国のインフラ受注や中小企業の海外進出を支えるため、日本政策投資銀行産業革新機構などを活用した官民連携の新たな基金を設置する案が浮上している。日本のコンテンツやファッションを売り込む「クールジャパン」を推進するための機関設立も検討する。政府開発援助(ODA)の抜本見直しも議論する見通しだ。
 安定的な資源調達なども協議する。北米産シェールガスの導入など天然ガスの調達ルートの多様化や、アフリカでの希少金属レアメタル)など鉱物資源の権益確保が主要課題となる。
 国際競争力のある人材を育成するため、大学の秋入学の加速に向けた産学官の取り組みを急ぐ。
 将来の社会構造の変化を見据え、市場拡大が期待できる分野を重点的に育成する「新ターゲティングポリシー」では、高齢化社会に対応する「世界で一番元気で暮らせる国」や、原発依存度の低減を目指した「クリーンで経済的なエネルギーシステムの実現」などの課題を設定する。
 高齢化社会にあわせてiPS細胞などを使った再生医療の研究開発を促進するほか、レアアース(希土類)を使わない新素材の実用化、再生可能エネルギーの貯蔵・運搬システムの確立などを想定している。

内閣が変わるたびに出てくる成長戦略、この数年で何個の成長戦略が発表されてきただろうか?
今回は民主党から自民党への政権交代が起こったので、新しい成長戦略を打ち出すのは当然なのだが、このような成長戦略が打ち出された後、どの点で成功をおさめ、どの点で失敗したのかという検証がなされることは全くと言っていいほどない。
具体的な戦略はこれから打ち出していくのだろうが、継続できる戦略を打ち出してほしいものだ

日本経済新聞13年1月7日付3面

規制改革会議、月内にも再設置、「国際先端テスト」導入、海外と比較重視。
 政府は民主党政権が廃止した規制改革会議を月内にも再び設置する。甘利明経済財政・再生相が6日、都内で記者団に明らかにした。国内と海外の規制を比較する仕組みとして「国際先端テスト」(仮称)を導入し、企業活動の妨げになっている規制の見直しを加速したい考えだ。
 甘利経財相は月内に立ち上げる「産業競争力会議」のもとで「総合科学技術会議、規制改革会議と連携をとる構造をつくっていきたい」と強調。稲田朋美行政改革相に規制改革会議の早期設置を求めたことも明らかにした。財政・金融政策と並ぶ成長戦略の柱の一つとし、新産業の育成や市場競争を促す。
 稲田行革相は会議のメンバーや対象分野の選定を急いでいる。企業経営者や学識経験者らで構成し、重点分野は医療・介護や環境、農業などが浮上し、参入規制の緩和が検討課題になる。東日本大震災を受けて、電力システム改革も対象になる可能性がある。
 国際先端テストは国内の規制を海外と比べ、成長可能性や企業のニーズが大きい分野について撤廃も視野に見直しを進める仕組み。企業活動をしやすくし、新産業の創出につなげる。比較の対象分野や海外の事例集めなどの設計を急ぐ。

規制改革は結構なことだと思うが、国内と海外の規制を比較しなくても、国内のビジネス環境をつぶさに観察すればビジネスの障害となっている規制は見つかるだろうし、経団連もすでに規制改革は要望しているはずであり、それに素早く対処することの方が大事だろう。
最適な規制というのは国ごとに違うはずであり、海外の規制を猿真似してもうまくいかないことも十分あり得る。規制改革の案を作るために海外のものを参考にすることは悪くないと思うが、あくまでも日本の事情に沿うような規制に改革していくことが大事であるということは肝に銘じる必要があると思われる。

色々書いたが、本格的な政策はこれから制定するわけだから注目していきたいと思います。

今日はこの辺で

*1:この政策に対する批判はここなども参照のこと