ストルパー=サミュエルソン定理の数値例
前回のリプチンスキー定理に続いて、今度はストルパー=サミュエルソン定理を具体的な数値例を使って示してみよう。
前回のリプチンスキー定理と同様に、両財の労働投入係数と資本投入係数を下表のように仮定する。
両財の単位生産費は、財を1単位生産するのに投入される労働と資本に対する支払いに等しくなる。このため、労働賃金をw、資本レンタル率をrとすると、第1財の単位生産費は労働投入係数3×賃金w+資本投入係数2×r=3w+2rとなる。同様に、第2財の単位生産費は2w+3rとなる。
今、両財の市場価格が100であるとき、各財の単位生産費用と価格は等しくなることから、この国が両財を生産しているとき、次のような式が成立することになる。
第1財(労働集約財)の単位生産費=価格 3w+2r=100 (1)
第2財(資本集約財)の単位生産費=価格 2w+3r=100 (2)
(1)と(2)の式は、それぞれ第1財(労働集約財)と第2財(資本集約財)の要素価格フロンティアを表す式と等しくなっており、この連立方程式の解が、要素価格フロンティアの交点で求められるこの国の賃金wと資本レンタル率rとなる。(1)と(2)を解くと、その値はw=r=20となることが分かる。このことを示したのが下図である。
この状態から、労働集約財の価格が100から110と10%上昇すると考えよう。このとき、(1)と(2)は次のようになる。
第1財(労働集約財)の単位生産費=価格 3w+2r=110 (1)
第2財(資本集約財)の単位生産費=価格 2w+3r=100 (2)
これを解くと、w=26,r=16となり賃金wは財価格上昇前と比べて30%上昇する一方で、資本レンタル率rは20%下落することが分かる。このことより、労働集約財の価格が上昇すると、集約的に使用されている労働の価格が上昇する一方で、そうでない資本の価格が下落するというストルパー=サミュエルソン定理が成立することが分かる。さらに、労働賃金の上昇率(30%)は労働集約財価格の上昇率(10%)を上回っており、拡大効果が成立していることもわかる。
このように、労働集約財の価格上昇が賃金の上昇と資本レンタル率の低下をもたらすのは、次のような理由による。労働集約財の価格が10%上昇すると、労働賃金と資本レンタル率が共に10%上昇しても、労働集約財の生産を行うことは可能となる。しかし、資本集約財の価格は変化していないために、賃金と資本レンタル率が共に10%上昇してしまうと、単位生産費用が価格を上回ってしまうために資本集約財を生産するのは不可能となってしまう。このため、労働集約財の価格上昇に伴って労働賃金と資本レンタル率が共に上昇するということはありえず、どちらかの価格は上昇する一方で、どちらかの価格は下落しなければならない。
労働集約財は、労働と資本をそれぞれ3単位と2単位投入しているため、生産要素の投入のうち60%は労働で、40%が資本ということになる。このことから、労働賃金が30%、資本レンタル率が20%下落するとき、労働集約財の価格の上昇率は(労働の投入シェア)0.6×(賃金上昇率)0.3−(資本の投入シェア)0.4×(資本レンタル率下落率)0.2=0.1となり、労働集約財の価格が10%上昇することが分かる。これに対し、資本集約財の労働投入シェアと資本投入シェアはそれぞれ40%と60%となることから、資本集約財の価格上昇率は(労働の投入シェア)0.4×(賃金上昇率)0.3−(資本の投入シェア)0.6×(資本レンタル率下落率)0.2=0となり、資本集約財の価格は変化しないことが分かる。
このように、労働集約財の価格が上昇するとき、資本集約財の価格を維持したまま労働集約財の価格上昇に応じて要素価格が変化するためには、労働賃金率は労働集約財の価格上昇率以上の率で上昇しなければならない一方で、資本レンタル率は下落しなければならないのである。
今日はこの辺で