TPPの最大恩恵国は日本?

日本経済新聞1月28日付17面より

経済教室 TPPの恩恵、日本が最大 ピーター・ペトラ氏*1 マイケル・プラマ氏*2
筆者らが開発した一般均衡モデルを使った試算では、交渉中の11カ国に日韓両国を加えた13カ国が参加するTPPが実現した場合、日本が最も恩恵を受けることが分かった。TPP参加で、日本の国内総生産(GDP)はおよそ10年後の25年に2・2%、金額にして1190億ドル押し上げられる(図参照)。また輸出は、不参加の場合を14%上回る見通しだ。この大幅増の一部は、TPPの柱である非関税措置の削減と投資の自由化により得られる。これがさらに日本への外国投資の活発化、高度な工業製品の輸出増、サービスの生産性向上につながると見込まれる。

 TPPがもたらす恩恵は、東アジア地域の自由貿易協定(FTA)である東アジア地域包括的経済連携(RCEP)*3で予想される恩恵より25%大きい。RCEPにも960億ドルのGDP押し上げ効果が期待できるが、RCEPの効果の方が小さいのは、中国など多くの国との交渉次第という臨機応変なアプローチをとっているからだ。これでは時間がかかるし、アジア各国が神経質になっている自動車など重要項目が外されかねない。
 アジアの大半の国は日本と同様、RCEPよりもTPPから多くの利益を得られる。TPPの規定の方が厳格であるうえ、アジアの多くの国は既に相互にFTAを締結していても、北米とは結んでいないからだ。従ってTPPは今後一層の拡大が見込まれる。
 とはいえ、TPPとRCEPの経済的な恩恵を単純に比較するのは間違いだ。日本を含め多くの国は、両方への参加を目指して何ら問題ない。二重戦略がもたらす経済的メリットは一段と大きく、日本の場合にはGDPを約4%押し上げるだろう。両者は重なり合っており、地域を2つに分断するものではない。
 米中両国が両方に参加する可能性は乏しく、当面中国はRCEPに、米国はTPPに肩入れすることになろう。だが2つの協定がともに強固になれば、両国にとっては、地域全体にまたがるアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)などへの発展的統合が魅力的な選択肢になるはずだ。

参加・不参加で大いに論争を繰り広げられ、一部の論者からは日本を破滅に追いやるとまで言われているTPPだが、いくつかの試算ではTPP参加国の内で最も大きな利益を得るのは日本だとされている。

これは、日本の農家に壊滅的な打撃をもたらすとしてTPPに反対の見解を表明している関西大学の高増明教授の試算でも同じだ。高増教授の試算では日本だけがTPPに参加したときの各国のGDPの変化は、日本が0.29%増加、ASEANのTPP参加国は0.30%増加するのに対し、米国のGDPはほとんど変化しないとされている*4

もちろん、GDPに対する影響だけでTPP参加を論じるのは乱暴ではあるのだが、これらの試算はTPPに参加しないことによる機会費用が日本にとっては大きいものであることを示している。参加するしないで論じるのではなく、TPP参加からいかに最大限の経済的利益を考えることの方が良いのではないだろうか。

*1:ブランダイス大学教授

*2:ジョンズ・ホプキンス大学教授

*3:RCEP参加国は日本、中国、韓国、インド、シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナムブルネイカンボジアミャンマーラオス、オーストラリア、ニュージーランド

*4:論文はここから見ることができます