米国が日本企業の輸出拠点に

日本経済新聞2012年6月24日付1面より

ホンダ、米を輸出拠点に、17年にも、日本並み15万台、森精機も米から韓台へ。
ホンダは米国からの輸出を拡大する。ドル安傾向が続いていることを背景に東南アジアへの輸出を始めたほか、中国、中東向けも増やす。2017年にも北米からの乗用車輸出を現在の約5倍の15万台程度に増やし日本並みにする。トヨタ自動車三菱自動車も米国からの輸出を増やす計画で、工作機械大手の森精機製作所は韓国、台湾への輸出を始める。各社は米国で生産能力を拡大しており、日本を軸とした供給体制を見直す動きが広がってきた。
ホンダは今月、アラバマ州の工場で生産したミニバン「オデッセイ」と多目的スポーツ車(SUV)「パイロット」のフィリピン向け輸出を始めた。東南アジアへの輸出は初めて。中東や中国向けを増やすほか、ロシアや自由貿易協定(FTA)が発効した韓国への輸出も検討する。
14年に北米の生産能力を現行比15%増の年187万台に増やす計画で、米国を中心に「早ければ5年後には10%弱を輸出に振り向ける」(ホンダ幹部)。
一方、07年に70万台を超えた日本からの輸出は11年に23万台に減少。今後は十数万台を輸出に振り向ける方針で、米国の輸出規模とほぼ同じになる見通し。
1990年代に大型車を北米から日本に輸出していたが、その後は日本を輸出拠点と位置付け、欧米アジアへの供給を拡大した。多様化する需要に合わせて現地生産を拡大するとともに、北米の生産能力を活用して柔軟に車を供給する。
トヨタはSUV「ハイランダー」の国内生産を打ち切り、今年後半に米国からオーストラリア、ロシアに輸出を始める。三菱自動車も今夏、米国からの輸出を始める。中南米やロシアなどが対象になる見通しだ。
自動車以外にも同様の動きが広がる。森精機は一部機種を日本から切り替え、13年夏にもカリフォルニア州の新工場から韓国や台湾などへ輸出を始める。ヤマザキマザックは昨年10月に始めた日本に続き、9月から韓国にも輸出する。
米国の輸出環境は好転している。ドルは02年ごろから幅広い通貨に対して下落基調にあり、通貨の総合的な実力を示す為替レート、「日経通貨インデックス」(08年=100)の5月のドル指数は104・4。10年前に比べ17・5%低い水準にある。
08年の金融危機後は米連邦準備理事会(FRB)が大幅な金融緩和に踏み切り、ドル安が加速する要因になった。
ドル安に加え、オバマ政権が韓国などと相次ぎFTAを締結し、関税なしで輸出できる地域が拡大していることも追い風になっている。
日本からの輸出には長引く円高や貿易自由化交渉の停滞など逆風が吹く。製造業各社は国内の生産能力を削減。円高ドル安の基調が当面続くとみて、米国を始めとする海外拠点を積極的に活用し世界規模で供給体制を最適化する。

記事では、最近のドル安傾向によって、日本企業が米国の製造拠点を米国現地市場だけでなく、中南米や今年FTAを結んだ韓国への輸出拠点としても活用しようという動きがあることが述べられている。
ただし、その原因がドル安にあるかは少々微妙だ。記事内では、日経通貨インデックスのドル指数が10年前から17.5%低くなったと述べられているが、2008年の水準からは4.4%上昇している。
下図は、BIS(国際決済銀行)のデータから、リーマンショックが起こった2008年9月の水準を100とした円、ドル、ユーロの名目実効為替レートの水準をグラフ化したものだが、これを見ると、現時点での米ドルの名目実効為替レートはリーマンショック時とほぼ同じ水準であることがわかる。リーマンショック以後、矢約10%ドル高が進んだ後、ドル安に転じ、去年の7月までに約15%ほどドル安が進んだ後、現時点ではドル高方向に振れているのが現状だ。今後FRABがQE3を実施するとドル安に転ずる可能性はあるが、急速にドル安が進むとはちょっと考えられそうにない。
一方、ユーロは2010年ぐらいからゆるやかな通貨安に向かい、現時点ではリーマンショック時に比べて8%ほどのユーロ安となっている。
問題は強烈な円高の進行だ。リーマンショック以後、急速に円高が進んだ以降もじわじわと円高が進み、リーマンショック時とらべて30%も円高となっている。
これでは、日本の企業も輸出拠点を日本から移さざるを得ないだろう。

ただ、米国に輸出拠点を移す理由としては、為替だけでなく、市場としての中南米の重要性の増大(中南米市場に本格的に供給するなら日本から輸出するより米国から輸出する方が輸送費が安くつく)、米国のFTA網の拡大、シェールガス革命や賃金低下など生産拠点としての米国の競争力の強化などさまざまな要因が絡んでいるのではないかと思われる。

今日はこの辺で