日本からの技術吸収を加速させる韓国

日本経済新聞6月17日付7面より

現代自・LGなど韓国勢、日本で技術者採用、先端素材・部品、自前主義を転換。
現代自動車やLGグループなど韓国企業が日本で技術者の採用活動を始めた狙いは日本が高い競争力を持つ先端素材・部品分野の強化だ。韓国政府も日本企業の誘致を後押しし、強い部品メーカーを自国や自社だけで育成する自前主義を転換する。自由貿易協定(FTA)の先行や、割安な電気料金など企業に優しい事業環境を受け、住友化学など日本企業も韓国進出を急いでいる。日本製造業の競争力の源泉ともいえる同分野の技術流出を懸念する声も出始めた。

現代自動車は15日、横浜市内のホテルで韓国人留学生を対象にした採用面接を開催した。電子制御、材料、環境分野などを専攻する大学生や大学院生に「エコカーの将来技術」に関するテーマについて発表させ、同社の研究開発部門の役員が面談、評価する。合格者は同社への最終面談の資格が与えられる。現代自動車が日本でこうした活動を手がけるのは初めて。世界販売台数で目標とする800万台が視野に入り、「量から質」への転換を目指す同社にとって、環境対応など先端技術の獲得は最大の経営課題だ。電気自動車(EV)などの開発は依然として日本勢が先行しており、「軽量化素材や電池素材の開発、量産技術を習得している日本で学ぶ学生への関心は高い」(現代自幹部)。
ゼネラル・モーターズ(GM)向けなどにリチウムイオン電池を供給し、パナソニックジーエス・ユアサコーポレーションなどのライバルとなっているLG化学。ただ、自動車バッテリー部門を統括するイ・ハンホ氏は「開発のスピードが上がらない」と悩みを打ち明ける。同社の強みはグループ内で素材開発から組み立てまで一貫してできること。だが、性能を左右する重要な材料を中心に「現在は半分くらいを日本メーカーから調達している」と話す。同社も大韓貿易投資振興公社(KOTRA)と組み、日本メーカーの技術者OBや日本の大学の韓国人留学生を対象に日本での入社試験・面談を検討。技術・人材の取り込みを強化する。

この10年間の部品素材育成戦略はうまくいっていない」。今月11日から13日までソウル市内で開催した「海外投資フォーラム2012」。目玉となった日本企業を対象とした「部品素材投資環境セミナー」の冒頭、知識経済省(日本の経済産業省に相当)のイ・スンウ部品素材統括課長はこう切り出した。韓国政府は01年に部品素材特別措置法を制定し、先端分野の部品・素材の国産化を進めてきた。しかし、同分野は日本からの輸入が輸出を上回り続け、対日赤字は01年の105億ドルから11年には228億ドルと倍増。液晶パネルや半導体製造に不可欠な一部素材では8割以上を日本からの輸入に頼っている。韓国政府は特別措置法を10年間延長する一方で、自前だけの育成方法を転換。日系企業の誘致も両にらみで急ぐ。韓国のFTAや政府の手厚い支援に魅力を感じる日系メーカーも増えており、自動車のボディーなどにも使われる炭素繊維では東レが、リチウムイオン電池材料などの分野では帝人が韓国への投資を増やす。

自動車関連だけでなく、電機向けの素材も日本企業の韓国投資が相次ぐ。住友化学は液晶パネルの材料を手掛ける子会社の東友ファインケム(ソウル市)のほか、サムスン電子などが出資するサムスンLED(水原市)と共同で発光ダイオード(LED)の材料製造会社を設立する。東友ファインケムの橋本清保副社長はサムスン電子やLG電子など「ビッグプレーヤーの存在や日本より割安な電気料金は大きな利点だ。FTAを使い、第三国への輸出拠点として活用していく」と話す。高い法人税率や円高など「6重苦」に苦しむ日本企業にとって、韓国進出は短期的にはメリットが大きい。ただ、日本の製造業を支えてきた部品・素材産業の厚みが失われる空洞化問題と、技術流出のリスクが高まる懸念は残る。日本政府や企業には長期的な課題にどう対応するかを視野に入れる必要もありそうだ。

記事にあるように、韓国は自動車や電機関連の先端技術の獲得を促進させるために、企業が日本で学んだ留学生、日本人技術者の採用を進める一方、国はFTAや支援政策を通じて日本企業の誘致を進めている。韓国は元々部品・素材の国産化を進めようとしていたが、自前主義では思うような結果も出なかったので、外国からの企業誘致を活用した方法に切り替えようとしているということだ。このような外国企業の直接投資を活用した技術力の強化は経済学的にはきわめてまっとうな方法だ。日本企業の韓国への進出は、進出した日本企業で勤めていた労働者の韓国企業への転職や、韓国企業と日本企業との垂直的取引関係(受注と下請けの関係)を通じて、韓国企業の技術力向上にもつながっていくだろう。

記事の最後にあるように、これは日本経済にとっては由々しき問題だ。「6重苦」の解消による日本の立地条件の改善は必須だが、日本企業の韓国進出を無理に止めるだけではあまり意味がない。日本が国際競争力を維持するためには、日本も韓国と同様に自前主義から脱却して、外国の優れた企業や人材をいかに自国に取り入れるのかについて真剣に取り組むべきだ。

今日はこの辺で