少子高齢化がもたらす政策課題

1月17〜19日の日本経済新聞の経済教室で、『人口動態が迫る政策』と題して、西村清彦日銀副総裁、小峰隆夫法政大教授、加藤久和明治大教授の3人が少子高齢化が進む世界経済における政策課題について書かれていた。

彼らの論文に共通している背景は、日本経済はこれから人口オーナス(人口学的重荷)の時代へと入っていくことだ。長期的な経済成長を考えるとき、ベビーブームと平均余命の増加によって生産人口比*1の上昇と経済成長の高まりが実現する「人口ボーナス(人口学的贈り物)」という黄金時代の後、少子高齢化に伴い生産人口比が低下していき、それとともに経済成長力が低くなるという「人口オーナス」がやってくることが近年多くの文献によって指摘されている。日本の高度経済成長期はまさにこの人口ボーナスの恩恵であり、人口オーナスに突入している現在は、潜在的な経済成長力の低下とともに人口ボーナスを前提として作られた社会制度の矛盾が発生しており、その改革が必要だというのが3氏の共通見解である。

次に、一人ひとりの論文について取り上げていく。

まず、西村日銀副総裁は、生産人口比の上昇と資産バブルとの関係について、日米欧における資産バブルのピークと生産人口比のピークが驚くほど同じであることを指摘している*2。これは、次のようなロジックによると西村氏は指摘する。「経済のロジックで考えれば、平均余命が長い時に、生産人口比と資産価格が長期的に相関を持つことは理解しやすい。若者・壮年は引退後に備え資産を購入し、老年期には資産を売却し生活する。その際、土地は将来に消滅する可能性が低く相対的に安全なため、多くの国では比較的情報が多い居住用の土地を若年・壮年層が購入する。土地の供給は限られているので、若年・壮年人口が多いほど、需要と供給の関係から土地の実質価格は高くなる。従って、生産人口比が高まっている時には実質地価に上昇圧力がかかり、逆に生産人口比が低下している時には実質地価に下落圧力がかかる。結果として生産人口比と資産価格(実質地価)は長期的に正の相関を持つ。」そして、金融の技術革新(担保や格付け)の進展が、この動きを増幅させることによって人口生産比の上昇に伴う資産価格の上昇がバブルにまで発展したと西村氏は指摘する。しかし、日本をはじめ米国、欧州も生産人口比のピークは過ぎ、これからは人口オーナス期に入る。このため、現在の世界金融危機を先進諸国が短期間で乗り越える可能性は低く、少子高齢化が進み成長力が低下するなかでバブル崩壊のツケを払っていかなければならないと西村氏は悲観的な見通しを建てている。そして、最後に、このような状況を乗り越えるためには、「世代間で公平な負担の仕組みをつくり、構造改革を通じて経済の伸縮性を回復して若年層の力を伸ばす」ことが必要だと西村氏は指摘している。

次に、小峰法政大教授は、日本が世界の中で最も人口オーナス度が高くなるという意味で、少子高齢化問題における世界のトップランナーであることをまず指摘している。その上で、人口オーナスがもたらす経済的悪影響について、経済成長の低下に加えて世代間格差の拡大も大きな問題だと指摘している。世代会計を用いた分析によると、世代間格差の指標であるゼロ歳世代と将来世代の負担の比率を国際比較した時、日本が群を抜いて高くなっていることを小峰氏は問題視している*3。さらに、世代間格差に表されない世代間格差として、すでに雇用されている正社員現役世代と新たに労働市場に参入しようとする若年世代の雇用機会格差があることも小峰氏は指摘している。このような世代間格差が生じる基本的な原因として、小峰氏は①巨額の財政赤字が将来世代の負担になっていること、②賦課方式の社会保障制度が維持されていること、③若年層に雇用調整のしわ寄せがもたらされやすい長期雇用制度を維持していることの3点を指摘している。そして、その解決のためには「まずは消費税引き上げと社会保障給付の適正化で財政再建を進める。次に、引退世代の給付を削減する方向での社会保障制度改革を進めて、長期的にはできるだけ積み立て方式に近い制度に移行する。そして、企業間・世代間での労働力移動を流動化し、弾力的な雇用制度を構築していくことである。」事が必要だと述べている。しかし、現在の政権では、社会保障における高齢者負担の引き上げは先送りされる一方で、定年の延長という長期雇用制度の拡大を企業への義務付けを進めるなど若年層へのしわ寄せが増すような方向に向かっていると小峰氏は警鐘を鳴らしている。

最後に、加藤明治大教授は、少子高齢化が経済成長を低下させる問題について、高齢化による国内貯蓄率の低下が、新規投資の源泉を減少させることと、高齢化の進展が生産性の上昇にマイナスの影響を及ぼすことを指摘している。特に、後者については、高齢化(65歳以上人口比率)と技術進歩率の関係について分析したOECD(経済協力開発機構)による調査結果から、高齢化の進行が生産性にマイナスの影響を及ぼしていることを明らかにしている。この原因として、「少子高齢化は創造性の高い若い労働力を減少させ、知識技能が次第に陳腐化していく高齢人口の層を厚くするため、人口減少に伴う集団的な力の喪失とともに生産性上昇にマイナスだとされる。」と加藤氏は指摘している。このような高齢化に伴う生産性上昇マイナスの影響を緩和し、持続的な経済成長を遂げるために加藤氏はグローバル化の進展が必要だと述べている。国内の貯蓄率の低下に対応するためには、海外からの直接投資の呼び込みが、高齢化による技術進歩率の低下に対応するためには、創造性の高い若い労働力を日本国内に呼び込むことが必要だと加藤氏は指摘している。また、加藤氏は「海外との交易が進むほど技術進歩の速度が速まる」という自らの実証研究からFTA(自由貿易協定)のようなグローバル戦略を推進する必要性も述べている。

まとめると、少子高齢化の進展に伴う「人口オーナス」に突入した日本は経済成長力の低下と世代間格差の拡大という拡大を抱えており、前者の解決のためにはグローバル化の進展を、後者の拡大のためには「人口ボーナス」期に確立した社会保障制度や労働市場制度の改革が必要だということだ。経済成長力が高まるほど、痛みの伴わない世代間所得分配が可能となるため、これらの政策は片方のみが重要なのではなく両輪となって推し進めなければならない。

今日はこの辺で

*1:生産年齢人口を非生産年齢人口で割った比率であり、一人の子供や老人を何人の若者と壮年者が支えているかを示す。

*2:ここのブログ記事でも取り上げられています。

*3:日本は約6.3倍で世界一、第2位はイタリアの約2.3倍