中国における外資企業が現地企業にもたらすスピルオーバー効果について

RIETI Discussion Paper Series 10-E-026 How Do Chinese Industries Benefit from FDI Spillovers?を読みました*1

(要約)
Recently, Foreign Invested Enterprises (FIEs) in China have increased their investment in not only production activity but also R&D activity. This paper examines the impact of spillovers from their activities on two types of innovations by Chinese domestic firms: Total Factor Productivity (TFP) and invention patent application, using comprehensive industry and province-level data. We evaluate such spillovers according to FIEs’ ownership structure, the origin of foreign funds, and the type of their activity: R&D, and production. We find an interesting asymmetry between spillovers to TFP and patent application; however, although we do not find significant intra-industry spillovers from FIEs, which is in line with previous studies, we find robust inter-industries spillover on TFP. We also find substantial intra-industry spillovers promoting invention patent application but no evidence of inter-industries spillovers. Furthermore, whereas spillovers from FIEs to Chinese firms’ TFP stem from their production activities, the source of spillovers to invention patent application is mostly through their R&D activity. Our findings indicate a need for multi-dimensional evaluation on the role of FDI in developing countries.

(訳)
 最近、中国で活動する外資系企業は生産活動のみでなくR&D活動に関する投資を増やしている。この論文では、これら外資系企業の活動がもたらすスピルオーバーが、現地企業による二つのタイプのイノベーション(総要素生産性(TFP)と特許申請数)に与える影響を包括的かつ省レベルのデータを用いて分析している。論文では、そのようなスピルオーバー効果を外資系企業の所有形態、出資元の違い、現地で行っている活動(R&D活動か生産活動か)の違いを考慮しながら分析されている。その結果、現地企業のTFPと特許申請数へのスピルオーバー効果について興味深い違いがあることがわかった。この分野の過去の研究と同様に、TFPに関しては外資系企業からの産業内スピルオーバー効果は観察されなかったが、産業間スピルオーバー効果の存在が観察された。また、特許申請数に関しては産業内スピルオーバーが観察されたが産業間スピルオーバーは観察されなかった。さらに、外資系企業から現地企業のTFPへのスピルオーバー効果は外資系企業の生産活動から生じているのに対し、特許申請数へのスピルオーバー効果はR&D活動からほとんど生じていることが明らかになった。これらの結果は、途上国における直接投資の役割つについて多元的な分析が必要であることを示している。 

 途上国が外国企業の直接投資を積極的に導入している理由の一つに、優れた技術を持つ多国籍企業が自国に立地することによって現地企業の技術が向上することを期待していることが挙げられる。自国企業が、優れた技術を持つ外国企業の活動を同じ国内で観察することによって(デモンストレーション効果)、もしくは外国企業で働いている労働者を高い賃金を支払い引き抜くことによって、もしくは外国企業と取引関係を結ぶことによって、外国企業の優れた技術を取り込むことをスピルオーバー効果といいます。
 従来途上国における外国企業がもたらすスピルオーバー効果といえば、外国企業の生産拠点(工場)の設立・生産活動が現地企業の生産性の向上に貢献しているかどうかを検証するものだったが、近年先進国多国籍企業が中国やインドなどの新興途上国で積極的にR&D拠点を設立していることを受けて、外国企業の生産活動のみでなくR&D活動がもたらすスピルオーバー効果の研究が少しずつ出てきた。この論文もその中の一つである。特に、この論文では外資系企業の所有形態や出資元、現地企業との取引関係などスピルオーバー効果の要因について詳細な経路から分析されているところが優れたところである。

 この論文で得られた興味深い結果は、R&D活動に関するスピルオーバーは同一産業内の企業間で、生産活動に関するスピルオーバー効果は垂直的取引関係にある企業間で発生することを明らかにしたことである。さらに、垂直的取引関係に関するスピルオーバー効果については、川上産業における外資系企業の生産活動は現地企業のTFPに正のスピルオーバー効果を与える一方、川下産業における外資系企業の生産活動は現地企業のTFPに負のスピルオーバー効果を与えるという結果も非常に興味深いものでした。

*1:テクニカルサマリーはここ