エコ補助金よりもエコ課税を

Tax policies for low-carbon energy /VOXより

(要旨)
Economists often advocate taxes or cap-and-trade schemes to fight pollution, but US policy primarily subsidises clean energy alternatives. This column critiques such subsidies on four counts: they lower the cost of energy, pick favourite technologies, are often “inframarginal”, and interact in unexpected ways with other policies.
(訳)
エコノミストはしばしば汚染に対して課税や排出権取引を用いるべきだと主張するが、アメリカの政策は主に代替クリーンエネルギーに対する補助金支給が中心である。このコラムはそのような補助金政策を次の4つの観点から批判する。エネルギーコストの低下、特定の技術への偏向、補助金悪用の恐れ、そして他の政策との思わぬ相互作用である。

クライメートゲート事件や世界経済危機の発生以降、政治の世界で温暖化対策の勢いは完全に失速している。先月末のNewsWeekでも先進諸国で温暖化対策への取り組みが冷めていっていることが指摘されていた*1

その記事の中では、「グリーン政策は、再生可能エネルギーへの助成金や、嫌われ者の大手エネルギー企業叩きを意味する限り指示される。だが、自動車利用を減らすなど生活の変化を迫られるとなれば、たちまち壁にぶち当たりかねない。」と書かれている。

経済学では、Co2の排出を防ぐためには炭素税のような課税政策を行うか排出権取引のような数量規制を行うべきというのが一般的だが、このような政策は企業さらには消費者にコストを強いる政策であるために導入するのはなかなか難しい。このため、実際にはこのブログ記事が指摘するようにクリーンエネルギーへの補助金政策が実施されることが多くなる。ブログ記事ではアメリカの政策のみ指摘しているが、欧州や日本で導入されている太陽光発電風力発電の固定価格買取制度なども同様な政策である。

このブログ記事ではこのような再生可能エネルギーやクリーン技術の導入について4つの観点から批判を行っている。ちょうど東レ経営研究所のレポートに日本語で解説がなされていた*2のでその部分を抜粋しようと思います。

 再生エネルギーや電気自動車など低炭素技術の開発と普及について補助金や税額控除を用いて促進を図ることで温室効果ガスの削減を狙う動きが先進国を中心に見られている。自動車買い替え支援もその一つである。これらは、昨今の景気刺激策の一環としても位置付けられているが、温室効果ガス削減の観点から見ると問題点が多い。タフツ大学のMetcalf教授は以下4 点に分けて解説している。
 まず、低炭素エネルギーへの補助金の支出は消費者にとって既存エネルギーと同レベルのコストにまで低下するだけであって、消費者の節約意識を喚起できないためエネルギー消費を減らさない恐れがある。
 次に、補助金支出が特定の技術に偏る恐れがある。例えば、米国では2009 年時点においてハイブリッド車よりも燃費の面で優れているガソリン車が存在しているが(図表4)、このような車種は2005年に制定されたエネルギー政策法で規定された自動車取得税の控除の
対象ではない。同法はガソリン車の燃費改善努力を妨げる恐れが高い。
 3 番目に、補助金が効果を持たないどころか悪用される恐れがあることだ。米国の製紙会社は近年ボイラー燃料としてバイオ燃料の一種である黒液にディーゼル燃料を混ぜて使うようにしたが、もともと黒液は製紙工程で排出される廃液であり燃料として利用されていたものであった。このように黒液にあえてディーゼル燃料を混合する背景には、2007 年以降、バイオ燃料に対する税制優遇措置が設けられ、バイオ燃料を混合させた場合、1 ガロン0.5ドルの税額控除を受けることができることが指摘されている。
 最後に、補助金政策と他の政策との整合性がとれず、結果として効果を発揮していない場合もある。先ほど挙げた2005 年のエネルギー政策法におけるハイブリッド車取得税額控除はCAFE(自動車企業平均燃費規制)の存在のために温室効果ガス削減に効いていないと言われている。自動車メーカーが燃費の高いハイブリッド車を販売すると、CAFE の燃費規制で課された企業別の販売枠に余裕ができるため、燃費の低いガソリン車を販売する余地ができてしまう。
 温室効果ガス削減には、こういった補助金支出によるアプローチよりも、市場にベースをおいたアプローチ、例えば排出権取引や炭素税の導入が有効であると指摘されており、現実もその方向で進みつつある。