日本がTPPに参加表明。日本は何を勝ち取ろうというのか

ようやく15日に安倍総理がTPP参加を表明した。

この数週間TPP参加を巡って、農業や医療など「聖域」の話ばっかりがマスコミに溢れ、こんな「守り」の話しかしないのであれば、TPP参加なんてやめてしまえば?なんて思っていた。
TPPのような国際交渉では、何を守るかということが大事ではないとは言わないが、まずは何を勝ち取るかという「攻め」がまず大事だ。
そもそも「攻め」の分野がなければ交渉に参加する意味がないからだ。
それに、攻撃は最大の防御ではないが、自国の主張を堂々と展開し「攻め」の姿勢を見せることで、相手側の譲歩を引き出すことは「守り」にもつながる。。米国との事前交渉では、その前に首脳会談で日本がオバマ大統領から「聖域」が存在するという言葉を引き出した代わりに、米国の自動車関税の撤廃に相当期間の猶予を与えることになってしまったが、これも日本が先に「聖域」の存在を主張したがゆえに、それを逆手に取られることによって実現してしまったことだ*1。「聖域なき関税撤廃」を看板とするTPPではありえないことが成立したのも、日本が「守り」の姿勢を強く打ち出しすぎたからに他ならない。

TPP参加を正式表明したことで、ようやく、TPPにおける「攻め」に関する記事が出てきた。
日本経済新聞3月17日付3面より

日本のTPP戦略、投資・サービスで攻勢、政府調達や原産地規則、交渉で緩和求める。
安倍晋三首相が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加を表明したことで、政府は具体的な交渉方針づくりに入った。TPPの交渉分野は関税のほかにも投資やサービスなど幅広く、攻守の戦略は欠かせない。日本は農業分野で多くの品目の関税維持を目指す一方、サービス分野や貿易ルールづくりで高いレベルの自由化を要求する構えだ
TPP交渉に参加する11カ国は21の分野で共通のルールづくりを進めており、「越境サービス」などの作業部会で国境を越えたサービス関連企業の海外展開のルールを議論している。日本は同部会での交渉に特に力を入れる方針。
 アジアの中には外資系企業によるサービス分野の進出を規制している国が多い。例えばベトナムは小売業への進出を制限しているうえ、マレーシアでも小売りや外食産業の自由化が遅れている。
 TPP交渉で段階的にでも規制を緩和・撤廃できれば、成長力の高い新興国に日本のコンビニエンスストアやスーパーマーケットなどが進出しやすくなる。

各国政府が物品やサービスを購入する際のルールである「政府調達」は日本にとって攻めの分野だ。米国は州政府の公共事業の発注先で、自国企業を優先的に採用する傾向がある。マレーシアも「ブミプトラ」と呼ばれるマレー系国民の優遇施策をとっている。日本は自国を優遇する政策の見直しと内外無差別の扱いを主張する見通しだ。
製品がどこで作られたかを証明する「原産地規則」と呼ぶルールも焦点のひとつ。自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の関税優遇を受けるには、自分の国で生産したことを証明する書類が必要だ。各国で仕組みが異なっているため、日本は手続きの共通化や簡略化を主張する
投資ルールの交渉は複雑な構図になっている。投資家が投資対象国の規制変更などで損失を被ったとき、投資家と国家の紛争解決(ISDS)手続きの範囲などを議論しているが、オーストラリアなどは導入そのものに猛反対している。日本は既存の投資協定などにISDSを盛り込んでおり、基本的には賛成の立場だ。

TPPと言えば、関税撤廃ばかりが話題に上がるが、サービス業に関する規制も日本にとっては重要だ。コンビニや外食産業をはじめ、教育・介護サービスなど多くの国内サービス産業が、アジアに市場を広げようと直接投資によって進出しているが、この分野では各国の国内規制があり自由なビジネス活動の妨げとなっているケースが多い。このような国内規制を取り除き、日本企業のアジアでのビジネスチャンスを広げることは、TPPが日本にもたらす恩恵の重要な項目だ。
政府調達の分野も、インフラ輸出を増やしていこうとする日本にとっては重要だ。アジア諸国では経済発展に伴ってインフラ需要がどんどん拡大していくし、米国でも高速道路や鉄道などでインフラ更新の需要が拡大することが見込まれているが、公共事業に関しては国産品優遇政策をとる国も多く、日本からの輸出に対する障壁となっている。リーマンショック直後に米国が導入しようとした「バイ・アメリカン条項」もこのような国産品優遇政策の一つだ。WTO体制下では政府調達における内国民待遇、最恵国待遇の適用を義務付ける政府調達協定(GPA)があり、日本や米国、カナダ、シンガポールといった先進国はこれを批准しているが、他のアジア諸国は、このような協定に参加しておらず、露骨な国産品優遇政策を行うことも可能だ。これを防ぎ、インフラ分野での日本の国際競争力を発揮するためにも、日本は積極的な自由化要求をしていくべきだ。TPP反対派の中には日本国内の公共事業に外国企業が参入することを懸念する者がいるが、政府調達の分野では日本は米国より広い範囲で市場を開放しており、失う物よりも得る物の方が大きいのだ。
原産地規則の簡素化は、アジア中にサプライチェーンを張り巡らしている日本にとっては重要だ。TPPによって関税が撤廃されても、関税撤廃を適用するためには、その製品の大部分がTPP域内で生産されたことを証明する原産地証明が必要であり、そのためのルールが原産地規則なのだが、この手続きが複雑であったりコストがかかったりすると、実際に企業が関税撤廃を得ることは困難となる。このため、原産地規則が簡素化されるかどうかは、TPPの実効性の重大なカギとなっているのだ。特に、生産工程が多くの国に分散している産業ほど原産地規則の手間は複雑になるため、この分野におけるルールの簡素化は日本の製造業にとっては重要な関心事項となっている。
最後に投資ルールだ。TPP反対派にはISDS条項を「毒素」条項と呼び、これが入ると日本政府が米国企業から訴訟されまくることになると主張するが、アジアに進出する企業がどんどん増える中、これらの企業の利益を守るためにはISDS条項は必須だ。これがあれば、アジアの国々の突然の政策変更が日本企業に損害をもたらすことを防ぐことができる。確かに、ISDS条項によって日本政府が外国企業に訴えられる可能性もあるが、日本に進出して生きている外国企業より、外国に進出している日本企業の方が圧倒的に多い。差引を考えると、ISDS条項は、日本にとって決して損な条項でなく、むしろ海外でのビジネスリスクに対する武器となる条項なのだ。

もちろん、これらの交渉において日本に有利な取り決めがなされるかどうかは、日本の交渉力次第だ。ある面では米国の力を借りながら、ある面では他国と協力して米国の行き過ぎを抑えながら、何を勝ち取ることができるのか。日本政府の交渉力に期待したい。

今日はこの辺で

*1:詳しくはここ