アウトソーシングの増加が国内の熟練労働者の雇用に与える影響

VOXよりOffshoring of high-skilled workers is not a zero-sum gameを読みました。

(要旨)
Multinational firms outsourcing or offshoring their operations to developing countries is a problem as old as globalisation. This column looks at the effect on high-skilled labour in the home country. It presents evidence that, on average, when firms start employing high-skilled workers offshore, they also increase the number of this type of worker employed at home.
(訳)
多国籍企業が業務の一部を途上国に外注するアウトソーシング(オフショアリング)はグローバリゼーションと同じくらい古い問題だ。このコラムは、アウトソーシングが本国の熟練労働者に与える影響について考察している。多国籍企業が国外で熟練労働者を雇用し始めるとき、概して国内での同タイプの労働者の雇用もまた増えるという実証結果が示されている。

最近、日本企業の国外(特に中国をはじめとするアジア新興国)での研究開発拠点の設立もしくは拡大のニュースを新聞で見ることが多い。このような企業のR&D活動の国際化の動きは、なにも最近のことではなく以前から起こっていることではあるが、最近そのニュースを聞くことが多くなったのは、新興国での競争力強化が日本企業の経営戦略上重要な位置を占めてきているということに加えて、この動きが国内の空洞化につながっているのではないかという懸念も伴っているからではないかを思われる。

国内企業による国外アウトソーシングの増加が、国内雇用に与える影響については、オフショア・アウトソーシングの増加が雇用・賃金に与える影響でもとりあげたが、今回紹介するブログ記事は、研究開発の国際化に伴う外国での研究員の雇用が国内での研究員の雇用に与える影響について分析した研究について述べられたものだ。

イギリスの独立系シンクタンクの1つ財政問題研究会(IFS:Institute for Fiscal Studies)のレイチェル・グリフィス氏らの研究によると国内と国外で研究開発活動を行っているEU籍の多国籍企業の国内と国外での研究員の雇用の変化を調べた結果、外国で研究員の雇用が10%増加すると、国内での研究員の雇用が1.9%増えるという実証結果を得た。このことは、外国での研究開発活動の拡大が、国内の研究開発活動の拡大につながっているということを意味している。

そもそも、外国での研究員の雇用(研究開発活動の規模)が国内のそれに与える影響は、国外で行う研究開発活動と、国内の研究開発活動がどのような関係にあるかに依存する。
外国と国内で行う研究開発活動が全く異なるものである場合、外国の研究開発活動の拡大もしくは縮小は国内の研究開発活動の規模に影響を与えることはないだろう。もし、外国と国内で行う研究開発活動が全く同じ活動であり、外国で行おうが自国で行おうとも変わらない場合*1、外国での研究開発活動の拡大は、国内での研究開発活動の縮小につながる可能性が高くなる。これに対し、もし外国での研究開発活動によって得られた技術や知識が、国内の研究開発活動の生産性を高めるとき*2、外国での研究開発活動の拡大は国内の研究開発活動を拡大させる可能性がある。

グリフィス氏らが得た結果は、多国籍企業による国内と国外の研究開発活動が全体的に補完関係にあることを意味している。このことは、政府は多国籍企業に国外での研究開発活動を抑制するような政策を行うよりも、むしろ国外での研究開発活動の拡大を後押しするような政策を行うべきであろうことを示している。

今日はこの辺で

*1:この場合、国内と外国で行う研究開発活動は完全代替の関係にある

*2:これは、国内の研究開発活動と外国でのそれが補完関係にあるときに成立する