国際収支発展段階説について(3)

ここここここからの続きです。

いよいよ、経済発展段階に応じた国際収支の変化に関する説明をしていく。

(1)未成熟債務国
国際収支発展段階説の初期段階は未成熟債務国である。
経済発展の初期段階とは、国内の生産力が低く、国内需要を国内生産で賄えない状態である。国内の生産力を向上させるためには、インフラ投資や設備投資などをしていかなければならないが、国内の生産力が低いために、投資のための生産を国内で行うこともできない。このため、生活に必要な製品や、国内の生産力を向上するための機械設備や工業素材などは外国から輸入しなければならなくなる。このことから、この国の貿易収支は赤字となる。
また、国内生産を向上させるための投資を行うためには、投資の原資が必要だが、この国の生産力が低いために、生産から得る所得は低く、そのために、国内の投資需要を満たすために貯蓄をする余裕がこの国にはない。このため、国内経済を発展させようとすれば投資需要>貯蓄となるため、足りない資金は外国から調達しなければならなくなり、これが資本収支の黒字につながる。
資本収支が黒字ということは、外国からの負債(借金)が増えることになるため、この国は対外純債務を持つ債務国となる。発展段階の初期状態では対外資産はほとんど保有していない状態なので、対外資産からの金利・配当収入よりも、対外負債に対する金利・配当の支払が大きくなるり、所得収支は赤字となる。貿易収支と所得収支が赤字となるため、経常収支は赤字となる*1

このように、経済発展の初期段階においては、一国の国際収支の構造は、経常収支赤字(=貿易収支赤字+所得収支赤字)、資本収支黒字となり、この国は対外純債務を保有する債務国となる。

この国の経済発展のカギは、資本収支の黒字をいかに維持するか、すなわち外国からの資金調達をいかにうまくやっていくかになる。どうすれば外国から資金を調達することができるか?それは、将来この国の生産力が向上して経済が発展していくという期待を外国の投資家に持たせることである。そのためには、国内政治の安定、市場経済をさせる諸制度の整備、そして産業基盤を強硬にするためのインフラ投資のプロジェクトとその実行が必要である。

(2)成熟債務国
外国からの資金を導入し、国内の産業基盤を整備するための投資が順調に進むと、国内の生産能力は増強されていき、やがては国内需要を上回る生産力を得ることができるようになっていく。貿易収支が赤字から黒字に転換する。
成熟債務国は、貿易収支が黒字となるが、これまで累積した対外債務への支払いがあるため所得収支は赤字であり、貿易収支の黒字がまだ所得収支の赤字を上回るほど大きくはなっていないために、経常収支は赤字となっている。このため、資本収支は黒字となり、依然外国からの資金流入に依存する構造になっている。裏を返せば、これは国内貯蓄を上回る国内投資が行われていることになる。資本収支の黒字が継続しているため、対外純債務はまだ増え続けている。

(3)債務返済国
さらに、国内投資が進み、生産力が増加していくと、所得収支の赤字を上回る貿易収支の黒字を得ることができるようになり経常収支は黒字化する。経常収支が黒字化するということは、資本収支が赤字になる。これは、外国からの資金流入よりも対外投資が上回ることを意味する。このときの対外投資には、これまでの対外債務の返済も含まれる。資本収支が赤字化することにより、対外純債務は減少することになり、所得収支の赤字も減少に転じることになる。対外純債務が減っていくことから、この国は発展段階の第3段階である債務返済国となる。

今日はこの辺で

*1:話の単純化のため、経常移転所得収支は省いて考える