国際収支発展段階説について(2)

ここここからの続きです。

国際収支発展段階説では、経済発展に応じて、一国が債務国から債権国になるにつれて国際収支の黒字・赤字項目の構成が変化することを示されている。

債務国とは、対外純債務を抱えている国であり、債権国は対外純資産を保有している国です。対外債務を抱えているということは、外国から借金をしているということであり、対外資産を保有しているということは、外国に資金を供給していることを意味している*1

対外債務や対外資産と国際収支の関係について理解するためには、国内の生産力と国内需要のバランス、および国内貯蓄と国内投資のバランス(貯蓄=投資バランス)について把握しなければならない。

まずは、マクロ経済でおなじみの3面等価の原則から話を始めたい。

3面等価の原則とは、一国内の生産額(総供給)と総所得と総支出(総需要)が等しくなるというものだ。
国内の生産(供給)は、国内製品に対する需要に応じて行われる。需要とは、大きく分けると国内需要と国外需要(外需)に分かれ、国内需要はさらに消費投資に分かれる*2。一方、国外需要に対する供給は輸出となる。すなわち、国内生産額=消費+投資+輸出の関係が成立している。
一方、国内生産によって国民が得た所得の使い道は、消費貯蓄に分けられる。消費はさらに、国内製品の消費と外国製品の消費に分類され、外国製品の消費は輸入となる。このことから、国内生産額=国内所得=(国内製品の)消費+輸入+貯蓄の関係が成立している。

この二つの関係式をつなげると、消費+投資+輸出=国内生産額=国内所得=(国内製品の)消費+輸入+貯蓄となり、両辺から消費を消して整理すると、輸出−輸入=貯蓄−投資となる*3。このことより、一国の純輸出(=輸出−輸入)の大きさは、国内の余剰貯蓄(=貯蓄−投資)に等しくなることが分かる。
純輸出は貿易収支を表すので、この式から、貿易収支が黒字(輸出>輸入)のときには、国内貯蓄>国内投資となり、国内の投資需要を上回る貯蓄が存在することを意味することが分かる。この国内に投資されない余剰貯蓄の行き先は国外の投資となるので、このとき、この国は対外投資を行っていることになり、資本収支は赤字となる。つまり、貿易収支黒字=資本収支赤字となる。対外投資は対外資産として積み上がっていくので、これが積み重なっていくとこの国は対外純資産の保有国となる。
反対に、貿易収支が赤字のときには国内貯蓄<国内投資となり、国内投資のための資金が国内貯蓄だけでは調達できなくなることを意味している。足りない投資資金は外国から調達すするしかなく、このとき対内投資を受け入れて対外債務が増加することになる。対内投資の受け入れは資本収支の黒字に等しく、資本収支の黒字が積み上がるほど対外債務が増えていき、この国は対外純債務国となっていく。

つまり、以上のことをまとめるとつぎのようになる。貿易収支黒字=資本収支赤字であり、資本収支赤字は対外資産の積み上げを意味するので、これが続くとこの国は対外純資産国となる。逆に、貿易収支赤字=資本収支黒字であり、資本収支黒字は対外債務の積み上げを意味するので、これが続くとこの国は対外純債務国となる。
また、貿易収支が黒字ということは、国内の需要を上回る生産力を持っているということを意味しており、反対に貿易収支が赤字ということは、国内需要に対して国内生産力が過小であることを意味しているため、生産力の大きな国ほど対外純資産国となりやすく、生産力が弱い国ほど対外純債務国になりやすいこともわかる。

今日はこの辺で

追記:ここまでは、話の単純化のために貿易収支と資本収支の動きのみを考えたが、所得収支と経常移転収支を加えると次のようになる。
所得収支と経常移転収支は、それぞれ、所得収支=(対外資産からの収益の受け入れ)−(対外負債への金利・配当の支払い)、経常移転収支=(外国からの贈与・援助の受け取り)−(外国への贈与・援助の支払い)を意味しており(ここを参照)、これらが正の値をとるときは、海外からの収入で国民所得が増えることを、負の値をとるときは海外からの支払いで国民所得が減少することを意味する。
このことより、国民所得=国内生産+所得収支+経常移転収支となる。
このため、国民所得=消費+投資+輸出+所得収支+経常移転収支となり、国民所得=(国内製品の)消費+輸入+貯蓄と組み合わせると、貿易収支(輸出−輸入)+所得収支+経常移転収支=貯蓄−投資となる。経常収支=貿易収支+所得収支+経常移転収支なので、最終的には経常収支=貯蓄−投資となる。このことより、経常収支黒字=資本収支赤字、経常収支赤字=資本収支黒字の関係が成立する。

*1:ある国の投資家が外国の株式や債券を保有することを、外国の株式と債券の発行者から見ると、その国から資金を調達することになる。

*2:話の単純化のために、政府部門はここでは考慮しない

*3:本文の表現は、簡単化のために外国製品の消費=輸入と考えたが、これは正確ではない。正確には輸入=外国製品に対する消費需要+外国製品に対する投資需要であり、外国製品に対する消費需要=輸入−外国製品に対する投資需要となる。このため、国内所得=(国内製品の)消費+輸入+貯蓄の式を正確に表現すると、国内所得=国内製品に対する消費需要+輸入−外国製品に対する投資需要+貯蓄となる。同様に、国内生産額=消費+投資+輸出の関係式は国内生産額=国内製品に対する消費需要+国内製品に対する投資需要+輸出(外国における国内製品に対する消費需要+外国における国内製品に対する投資需要)となる。このことより、国内製品に対する消費需要+国内製品に対する投資需要+輸出=国内製品に対する消費需要+輸入−外国製品に対する投資需要+貯蓄となり、これを整理すると輸出−輸入=貯蓄−(外国製品に対する投資需要+国内製品に対する投資需要)=貯蓄−投資となる。