FTA/EPAの増加が世界貿易に与える影響

VOXより、Preferential tradeを読みました。

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加をするかしないかが、今年大きく話題となりました。TPPのような、特定の国同士の間で輸入関税を撤廃し貿易自由化を行う経済協定のことをFTA(自由貿易協定)もしくはEPA(経済連携協定)と言います。このようなFTA/EPAは、90年代後半以降急速に増加し、現在は世界に300以上のFTA/EPAが存在します。日本もシンガポールやメキシコなどと11のFTA/EPAを結んでいます。
FTA/EPAが急速に増加している理由の一つは、WTO(世界貿易機関)が進める多角的貿易自由化交渉(世界の国々が集まり、貿易自由化を進める交渉)が欧米諸国や先進国と途上国間の対立によって一向に進まないことがあります。世界全体で交渉をするといろいろ複雑な利害対立が絡んで話がまとまらないのであれば、利害の合う国同士だけでも貿易自由化を進めようというのがFTA/EPAです。さらに、FTA/EPAには、一部の国でFTA/EPAが締結されると他の国も続々とFTA/EPAの締結に動くというドミノ効果と呼ばれるものがあります。これは、一部の国でFTA/EPAが締結され、輸入関税が撤廃されると、FTA/EPAに入らなかった非加盟国は、関税を支払わなければならない分だけ、その地域における輸出競争力が落ちることになるため、これを補うためにそれらの国々とFTA/EPAを結ぼうとすることです。日本がTPPの参加に積極的になる理由の一つとして、韓国が米国とFTAの合意に達して、関税なしで米国市場に輸出をすることが可能となるために、日本企業の輸出競争力が落ちるからだということが挙げられていますが、これがまさにドミノ効果となります。

今回読んだBlog記事では、このようなFTA/EPAの増加が、世界各国の貿易に与える影響について分析されています。記事内では、FTA/EPAが貿易に与える影響を二つの指標によって分析しています。一つは、輸出者が直面する関税・輸入障壁を示す指標であり、これをdirect market-access conditions(直接市場アクセス条件)と言います。FTA/EPAは加盟国間で輸入関税を撤廃するために、輸出者の外国市場に対するアクセスを改善させることになります。もう一つは、輸出者が競合国の輸出者に対する相対的な関税・輸入障壁の大きさを示す指標であり、これをrelative market-access conditions(相対的市場アクセス条件)と言います。FTA/EPAの締結は、加盟国の輸出者にとっては自分たちだけ関税なしで相手国市場にアクセスすることができるために、この指標が改善されるのに対し、非加盟国は加盟国市場における輸出競争力が悪化するためにこの指標は悪化することになります。このようなrelative market-access conditionsの改善による輸出競争力の相対的な強さをrelative preferential margin(相対的特恵マージン)とも呼びます。

分析の結果、2000年以降direct market-access conditionsは改善されていることが示されている。世界の2国間貿易における平均的な輸入関税率は2000年から2007年で6.9%から5%に低下しており、世界全体の平均輸入関税率も2.5%から2.2%に低下している。
一方、relative market-access conditionsについては、世界各国の平均的なrelative preferential marginは2000年から2007年で-0.2%から0.7%へと変化している。これは、2000年以前は、まだFTA/EPAが少数で、少数の国々が大きなrelative preferential marginを得ていたのに対し、FTA/EPAの増加によって、多くの国々がrelative market-access conditionsを改善していったことを示している。ただし、各国が得る平均的なrelative preferential marginは低下している。

このように、90年代後半以降のFTA/EPAの増加は世界の自由貿易を進める一方で、その利益は特定の国に集中せず薄く広く分散しつつあることがわかります。
下図は、世界各国のdirect market-access conditionsとrelative market-access conditionsの変化をプロットしたものである。縦軸はdirect market-access conditionsを横軸はrelative market-access conditionsを示しており、この図から世界の53.4%の国々ではdirect market-access conditionsとrelative market-access conditionsの両方が改善しているのに対し、13.7%の国々ではdirect market-access conditionsとrelative market-access conditionsの双方が悪化していることがわかります。ちなみに、日本はこの13.7%のグループに入っており、世界的なFTA/EPAの流れに乗り遅れていることが日本の輸出者に対する外国市場へのアクセスを悪化させていることがわかります。

今日はこの辺で