多国籍企業との緊張関係が、受入国企業の生産性を向上させる。

VOXよりMultinationals assist domestic suppliers? Perhaps think againを読みました。

(要旨)
The positive spillovers from multinationals to the productivity of their host-country suppliers are empirically well established. Usually, it is assumed that multinationals aid their suppliers by voluntarily sharing knowledge and cooperating with them. This column argues the spillovers might rather result from blunt pressure by the multinationals, forcing their suppliers to adopt new practices and to adapt to new standards.
(和訳)
多国籍企業が受入国の調達先の生産性を改善させるという正のスピルオーバー効果は、実証研究によって広く認められている。その際、多国籍企業は、進んで現地の調達先と知識を共有し協調活動を取るものと仮定されている。このコラムでは、多国籍企業がもたらす正のスピルオーバー効果は、むしろ調達先に最新の手法や基準への適応を強いる多国籍企業による容赦のない圧力の結果生まれていると論じている。

優れた技術や知識を持つ多国籍企業の進出が、受入国の現地企業の生産性の向上につながるというスピルオーバー(技術伝播)効果は、多くの研究によって示されている。スピルオーバーが生じる経路については、間近で多国籍企業の活動を観察することによってその技術や知識を吸収することが可能になるというデモンストレーション効果によるもの、多国籍企業の子会社で雇用され、その技術やノウハウを吸収した労働者が現地企業に転職(もしくは自ら起業)することによって生じるという労働移動を通じたものなどがあるが、調達先と納入先という垂直的取引関係を通じたスピルオーバーはその中でも最も有力なものである。

垂直的取引関係を通じたスピルオーバーが発生する理由として一般的にあげられるのは、多国籍企業にとって調達先や納入先といった現地の取引先の生産性向上は自らの生産性向上にもつながる一方で、調達先や納入先と市場で競合することはないため、現地企業の生産性向上が自らの利潤の減少につながらないことから、多国籍企業から現地企業への技術移転が促進されやすくなることである。

しかし、今回のBlog記事で紹介されているキール世界経済研究所のHolger Gorg教授らの研究によると、多国籍企業と現地企業との関係はそのような仲睦まじいものというより、多国籍企業が現地企業に厳しい要求を突きつけ、それに付いて来させるというスポ根的な関係であるというのだ。このような関係を彼らは"forced linkage"と呼んでいる。

Gorg教授らは、2002-05年の欧州の体制移行国の企業データを用いて、多国籍企業との取引関係の有無、新技術の導入、顧客との協調関係、競合企業や顧客企業からの圧力の存在が現地企業の生産性に与える影響を分析して次のような結果を得た。

  • 多国籍企業との取引関係、新技術の導入、競合相手からの圧力は生産性に対して特に影響を与えていない。
  • 顧客からの圧力は一般的には生産性を低下させるが、多国籍企業と取引関係にあり、かつ顧客からの圧力がある場合、生産性は向上する。

2番目の結果が、多国籍企業からの圧力が現地企業の生産性を向上させるという"forced linkage"の存在を意味していると彼らは結論付けている。

今日はこの辺で