R&D活動の国際化要因について

日本経済研究センター 中期予測の論点より「R&D投資は現地需要重視、今後はアジア向けで拡大」を読みました。

(要旨)
2000 年代以降、日本企業は、需要の旺盛なアジア諸国へ生産・販売拠点の海外移転を進めてきた。さらに、東日本大震災以降の円高やエネルギー問題はこの傾向に拍車をかけると見られる。こうしたアジアへの海外移転に伴い、R&D についても海外移転が進むと、国内で古い技術あるいは基礎技術、関連技術についての知識やノウハウが失われ、新しい技術を創り出せなくなる懸念がある。国際競争力強化のためには研究開発拠点の立地を強化する必要がある。
本稿では、日本企業の海外R&D 投資動向とその決定要因について分析、2020 年までの予測を行った。分析の結果、海外R&D 拠点は、先進国については現地需要や教育水準の高さ、アジアについては現地需要や低廉な賃金が設立要因となっていることが分かった。加えて、近年ではアジアでの研究者数の増加や教育水準の向上が顕著であり、現在の傾向が続けば、今後アジア向けに、優れた技術知識の取得を目的としたR&D が増加する。将来的には、アジア向けR&D の比率が欧米向けR&D を凌ぐ可能性もある。

トヨタが研究開発を完全現地化したように(ここ)、日本企業の研究開発活動は海外への展開を速めている。
今回紹介するレポートは、このような日本企業の国外での研究開発拡大要因を計量分析によって検証したものである。

レポート内の図表1−1が示すように、日本企業の海外R&D投資量は、1995年から約倍増している。地域としては、欧米が中心だが、最近ではアジアでのR&D投資も増えている。業種別では、電機・情報通信機械、化学、輸送機械が中心となっていることが分かる。

一般的に国外でのR&D活動には、現地市場の取り込みを見据えて製品を現地向けにカスタマイズする「アダプティブR&D」と、進出先の優れた技術知識の獲得を目的とした「イノベーティブR&D」の2種類が存在する。前者は、現地市場における需要の大きさや現地生産拠点の有無が、後者は現地の技術水準の高さがその決定の重要要因となる。

このレポートでは、日本企業での国外でのR&D活動*1の決定要因として、次の5つの要因を取り上げている。

  1. 投資先需要要因*2:経済規模の大きい国ほど、その市場における競争優位性を高めるために、その国でR&D活動を行う誘因は高くなる
  2. 設備投資連動要因*3:すでに現地生産を行っている国で、現地の規制や消費者に対応した製品を開発するためのR&D活動(アダプティブR&D)を行う誘因は高くなる
  3. 賃金要因*4:現地研究者の賃金が低いほど現地でR&D活動を行うコストは安くなる
  4. 人材要因*5:研究者の数が多いほど、現地の技術水準は高いと考えられ、その分レベルの高いR&D活動を行えると考えられる
  5. 教育要因*6:教育水準の高い国ほど、現地の技術水準は高いと考えられ、その分レベルの高いR&D活動を行えると考えられる。

1と2の要因はアダプティブR&Dの主要な決定要因、4と5の要因はイノベーティブR&Dの主要な決定要因であり、3はどちらのR&Dの決定要因にもなりえるとかんがられます。その結果を示したものが下図です。

この図を見ると、欧米では投資先需要要因と設備投資要因でほとんどの国外R&D投資を説明することができることがわかります。アジアでは賃金要因が一番大きい決定要因である一方で、設備投資要因もそれなりに大きな決定要因であることがわかります。北米とNIES4では教育要因もR&D投資にとって正の決定要因となっている一方、中国やASEAN4では教育要因は負の決定要因となっていることがわかります。

このような結果を受け、レポートでは現在の日本企業の海外R&D活動は、現地市場への対応を目的とした「アダプティブR&D」が中心であり、「イノベーティブR&D」はそれほど大きくなく、これらのR&D活動は日本にまだ留まっていると考えられている。しかし、今後人材要因や教育要因における日本とアジアの格差が縮小していくとアジアにおけるR&D活動は拡大するのではないかと考えられる。

今日はこの辺で

*1:その地域でのR&D投資/世界全体でのR&D投資

*2:投資先GDPが世界GDPに占める割合

*3:その地域での設備投資量/世界全体での設備投資

*4:その地域の賃金−日本の賃金/日本の賃金

*5:その地域の研究者数−日本の研究者数

*6:その地域の大学進学率−日本の大学進学率