中間財貿易の増加が貿易に関する議論に与える影響

VOXより、Trade in intermediates and economic policyを読みました。

(要約)
Intermediate inputs – the parts and materials imported to make products for consumption domestically and abroad – are a growing force in world trade. This column argues that without better measurement of intermediate imports we run the risk of overestimating the growth effects of exports and severely underestimating the cost of protection and the crucial role that inputs play in enhancing efficiency.
(訳)
中間投入物(自国や外国で消費する製品を生産するために輸入される部品や素材)の貿易は世界貿易の成長の大きな要因となっている。このコラムは、より優れた中間財輸入の指標を用いないと、輸出の成長がもたらす経済効果を過大に見積もってしまったり、保護貿易のコストや中間投入物が効率性の強化に果たす役割を過小に見なしてしまうリスクに陥ることを論じている。

グローバリゼーションの進展やIT技術の進歩に伴い、工業製品の生産プロセスは国境を超え世界中に広がっている。一昔前の日本では、鉄鉱石や原油などの資源を輸入すれば、素材、部品、そして最終加工まですべて日本国内で行い、出来上がった最終製品の一部を輸出すると言ったフルセット型の産業構造が特徴的でしたが、現在では、労働集約的な生産プロセスは労働賃金の安い国に配置し、それ以外の生産プロセスについても最も安く実現できる国に配置することによって生産性を高めるようになっている。
このような生産プロセスの国外配置をフラグメンテーションと言うが、フラグメンテーションの拡大は、最終財になる前の中間投入物の貿易の拡大につながっている。実際、世界貿易における中間財投入物の貿易の割合は増加しており、Blog記事によるとOECD諸国の輸入の半分以上、中国やブラジルなどの輸入については4分の3近い割合が中間財輸入が占めているそうです。
特に重要なことは、各国の輸出製品に占める輸入中間財の割合が近年増加していることです。下図は、各国の輸出品の中に占める輸入中間物の割合を示しているものですが、その水準には差がありますが、95年から2005年の間にどの国でも増加していることがわかります。日本でも、輸出製品における輸入中間物の割合は倍近くに増えていることがこのグラフからわかります。

このような中間財貿易の拡大が、世界貿易のとらえ方や貿易政策の議論に与える影響について、ブログ記事では次の4点を挙げています。

(1)2国間の貿易収支の重要性が過大評価されている 中間財貿易を考慮すると、各国の輸出はその国が得る付加価値を正確に示していないことが分かる。例えば、i-Pod touchは中国で生産され米国に輸出されるために、1台当たり150ドルの対中貿易赤字を生み出す。しかし、中国で生産されるi-Pod touchの部品の大半は中国国外で生産され中国に輸入されるために、中国から米国への輸出150ドルの内、中国国内で付加された付加価値は4ドルしか占めていない。つまり、i-Pod touch1台の対中貿易赤字150ドル のうち、実際中国の収入となっているのは4ドルであり、このことから対中貿易赤字が米国と中国の経済取引の実態を正確に示していないことが分かる。
 中国と米国の貿易全体についてみると、中国の輸出品の内で国内の生産活動による付加価値の割合が20〜35%であることを考えると、中国の対米貿易黒字の内、実際に中国での生産活動によってもたらされた付加価値は20〜40%は低く評価しなければならないとこのブログ記事では述べられている。逆に、近年米国の日本や韓国からの輸入は減少しているが、日本や韓国で生産された中間物が中国に輸出され、そこで生産された最終製品が米国に輸出されていることを考えると、日本や韓国の対米貿易収支も経済の実態を反映していないことが分かる。
 このように、工業製品の生産プロセスが国をまたがって分散していることを考えると2国間の貿易収支は国境を越えた付加価値のやり取りを正確に表しているわけではないことがわかる。

(2)総需要の牽引車としての輸出の重要性が過大評価されている一方で、輸入が経済の効率化に果たす役割は過小評価されている。 上のグラフで示されているように、輸出製品の中で輸入中間物の割合が増えていることを考えると、輸出の増加はGDPの増加を正確に表していないことが分かる。例えば輸出が100万円増えたとしても、輸出品の内輸入中間物の占める割合が20%であれば、100万円の輸出増がもたらすGDPの増加は80万円にしかならない。最近の世界的な不況の中で各国は輸出促進に躍起になっているが、輸出製品の生産が輸入中間物なしで成り立たない現在、輸出促進がもたらす総需要増加への貢献は思ったよりも大きくなるものではないことが分かる。これに対して、外国から安い輸入中間物が入ってくることによる輸出製品の競争力強化に関しては過小に評価されている傾向にある。

(3)貿易の動きは振幅が激しくなり、経済ショックの源泉となっている。 工業製品とくに耐久財(家電製品や自動車など)はGDPよりも貿易において重要になっている。例えば2008年の米国のGDPにおいて耐久財に占める割合は24%であるのに対し、財貿易において耐久財の占める割合は60%以上となっている。
景気が落ち込む時、消費者は耐久財の購入をまず控えるために、景気の悪化に伴う諸費需要の減退は耐久財で大きくなる。このことは、景気が悪化するときGDPの落ち込み以上に貿易の落ち込みが生じることを意味する。リーマンショック以降、2008年第3四半期から09年の第1四半期において世界のGDPは3%減少したのに対して、世界の輸出量は14%も低下しているのだ。
下図は世界の貿易量を非耐久財、耐久財・資本財、中間財に分けたものだが、2008年のリーマンショック以降耐久財・資本財と中間財の落ち込みが大きいことが分かる。耐久財や資本財は多数の部品を用いていることから、中間財貿易の割合が大きくなっている現在では、景気の悪化に伴う貿易の落ち込みは従来以上に大きなものとなる。このことは、外国の景気動向が自国の貿易やGDPに与える影響が大きなものとなっていることを示している。

(4)保護貿易の経済的コストは高くなっている。 輸出製品に占める輸入中間物の割合が上昇している現在、輸入中間物について輸入関税を課すと、それは輸出製品に対する課税を同時に意味することになる。また、輸入中間物に対する関税の上昇は、外国企業が政策実施国に直接投資によって工場を設立して生産を行うインセンティブをそぎ、政策実施国の国内企業の国外投資による工場移転を促進する結果となってしまう。

そして、最後に筆者は次のようにまとめている。

It is important to develop better measures of trade flows net of intermediate imports. A failure to do so can lead to the wrong policy conclusions about the importance of bilateral trade imbalances, and can lead us to severely underestimate the cost of protection. Further, large trade in intermediates can lead countries to overestimate exports as a source of demand growth, but also to overlook the crucial role that imports play in enhancing efficiency and exports. Generally, the existence of large and growing trade in intermediates, which is associated with foreign direct investment and the globalisation of production, greatly raises the stakes on countries having an open and predictable trade regime.
Large trade in intermediates also has its dangers, as evidenced by the huge global trade shock imparted during the financial crisis. The answer, however, is not less trade, but building better safeguards against financial instability.
(訳)
 中間物の純輸入を考慮した貿易指標を開発することが重要だ。それができないと、2国間の貿易不均衡に関する政策を間違った方向に導いてしまい、我々の保護貿易に関するコストを過小なものとしてしまうことになる。さらに、中間投入物の貿易が大きくなっていることは、世界各国における総需要の牽引車としての輸出を過大評価させるだけでなく、輸入が効率性と輸出の強化に果たす役割を見過ごさせることになる。一般的に、外国直接投資や生産活動のグローバリゼーションに伴う中間財貿易の拡大は、世界の国々が開放され予期できる貿易体制を築く必要性を増しているといえる。
 また、中間財の貿易が大きくなっていることは、金融危機において貿易が急減したことからもわかるように、非常に危険なものとなっている。しかしながら、このことに対する対策は、貿易を縮小させることではなく金融の不安定性に対してより改善されたセーフガードを用意することである。

今日はこの辺で