移民(外国人労働者)の雇用やオフショアリングの増加がネイティブの雇用に与える影響

VOXよりImmigration, offshoring and US jobsを読みました。

(要約)
 Manufacturing production and employment in the US has been in decline over recent decades, often with the finger pointed at immigration and globalisation. This column presents evidence from the US between 2000 and 2007 to show that immigrant and native workers are more likely to compete against offshoring than against each other. Moreover, offshoring's productivity gains can spur greater demand for native workers.

(訳)
米国における製造業の生産と雇用はこの数十年の間で減少してきており、このことはしばしば移民とグローバリゼーションによるものと指摘されてきた。このコラムでは、2000年から2007年の米国のデータから、移民とネイティブの労働者は、お互いに競合しているのではなく、共にオフショアリングと競合していることを示している。さらに、オフショアリングによる生産性の向上はネイティブの労働者の需要を増加させることがあり得ることが示されている。

外国からの労働者(移民)の流入と、国内で行われていた生産工程の海外移転(オフショアリング)は、自国民(ネイティブ)の雇用を脅かすものとして指摘されることが多い。
企業は、生産コストの削減のために、低賃金で雇うことができる移民の雇用を増やすか、もしくはオフショアリングによって現地の低賃金労働者を活用することに積極的になっている。このような企業の行動は、これまでネイティブが従事していた仕事を国内外の外国人労働者が従事するようになることを意味しており、そのためネイティブの雇用や賃金を脅かすものと考えられている。
しかし、このような移民の雇用の増加やオフショアリングの進展は、それを行う企業の価格競争力を向上させるために、企業自体の生産量を拡大させ、そのことがネイティブの雇用の拡大につながる可能性がある。最近の実証研究では、このような移民やオフショアリングの活用がもたらすネイティブの雇用拡大効果を示したものがいくつかでてきている。たとえ移民やオフショアリングの増加によって単純労働がネイティブから外国人労働者に切り替わっても、企業の生産の拡大によって、その他の仕事、特に外国人労働者が従事するような単純作業と補完的な関係を持つ仕事に関してはネイティブの雇用を拡大させる効果を持つと考えられる。
このように、移民の雇用やオフショアリングの増加がネイティブの雇用に与える影響は、ネイティブの行っていた仕事が外国人労働者に切り替わることによる直接的な雇用減少効果と、企業の価格競争力の向上によって企業全体の生産量が増加することに伴う間接的な雇用拡大効果との両者の大きさの比較によって決まる。

このブログ記事では、米国の雇用統計を用いて移民の雇用の増加やオフショアリングの増加がネイティブの雇用や従事する仕事の職種に与える影響について分析した結果を述べている。その結果は次のようなものである。
1.オフショアリングの増加は、企業の雇用に占めるネイティブと移民の割合を共に減少させる効果を持つが、ネイティブの雇用量には影響を与えていない。
2.移民の雇用の増加は、オフショアリングによって海外に流出する雇用の割合を減少させるが、ネイティブの雇用の割合には影響を与えない。さらに、移民の雇用の増加はネイティブの雇用量を若干増加させる効果を持つ。
3.オフショアリングの増加は、ネイティブの労働者が従事する仕事の職種をより認識的(cognitive)かつ非ルーチン的なものとするのに対して、移民の労働者の従事する仕事をよりマニュアル的かつルーチン的なものとする影響をもたらす。
4.移民の雇用の増加はネイティブの労働者が従事する仕事の職種に影響を与えない。

1.と2.の分析結果は、移民やオフショアリングがネイティブの雇用に対して与える影響について、直接的な雇用減少効果に匹敵する間接的な雇用拡大効果が存在していることを示している。そして、3.と4.の分析結果は、移民やオフショアリングの労働者は、ネイティブの労働者に比べてマニュアル的かつルーチン的な職種に従事しており、ネイティブの労働者と決して競合しておらず職種によるすみ分けが進んでいることが示されている。これらのことから、移民やオフショアリングはネイティブの労働者の従事する仕事と補完関係にあり、ネイティブ労働者のマニュアル的かつルーチン的な職種を代替することはあっても雇用そのものを奪うものではないことが分かる。

今日はこの辺で