アンチダンピングが貿易に与える影響

Antidumping: Much ado about nothing?/VOXより

The global crisis has raised fears that governments would engage in a protectionist spiral. This column argues that, while countries have by and large kept their promises not to raise barriers to trade, antidumping has crept up. Far from being a “small price to pay”, the new tough users of antidumping laws such as Brazil, India, Mexico, Taiwan, and Turkey have 5.9% fewer annual imports as a result.

(訳)
 世界危機は、各国の政府が保護主義の連鎖にはまるのではないかという不安を引き起こしている。このコラムでは、世界各国の政府が貿易障壁を引き上げることはしないと約束しているにもかかわらず、アンチダンピング措置が徐々に増えていることを論じている。アンチダンピング措置は損害の少ない政策といわれているが、ブラジル、インド、メキシコ、台湾やトルコといった近年アンチダンピング措置を頻繁に使っている国々では、その結果として毎年の貿易が5.9%減少している。

アンチダンピング措置とは、特定の製品について貿易相手国が本国での販売価格に比べて非常に安い価格(不当廉価)で輸出しているときに、その対抗措置として関税を課すことであり、WTO世界貿易機関)でも許されている保護貿易手段である。

一般的に、アンチダンピング措置は総輸入の1%未満の割合しか占めないような特定の製品についてのみ課されるものであり、輸入全体に与える影響は大きなものではないと考えられている。

しかし、このBlog記事の作者による最近の研究によると、アンチダンピング措置は、それが実施されあ特定の製品の貿易だけでなく、総輸入に対する影響も大きなものだとの実証研究結果を得ている。

作者によると、アンチダンピング措置が総輸入に与える影響は次のようなものである。

まず、特定の製品にアンチダンピング措置が課されると、その製品の代替製品についてもアンチダンピング措置が課されるのではないかという恐れが発生するためにその輸入が減少するという輸入減少のスピルオーバー効果が発生する。また、その製品が別の製品の部品や素材などである場合、その製品の輸入の減少ももたらされることになる。

さらに、アンチダンピング措置をとられた国の企業は、措置をとった国への輸出に対して、自らの製品もアンチダンピング措置をとられるのではないかという懸念を抱くことになるため、その国への輸出を抑制するかもしくは高価格で輸出をしようと考えることになり、これがアンチダンピング措置を取った国の総輸入の減少につながることが考えられる。

このような仮説のもと、作者はブラジル、インド、メキシコ、台湾やトルコといった、80年代後半に貿易自由化をはじめ、なおかつアンチダンピング措置を多用する国の貿易について実証分析を行い、貿易自由化とアンチんダンピング措置がこれらの国の総輸入に与える影響について明らかにした。

その結果によると、貿易自由化がこれらの国の総輸入の増加に大きく貢献しているのに対し、アンチダンピング措置は総輸入に対してある程度の抑制効果を持つことが明らかになった。

例えば、インドは1991年に貿易自由化に取り組み始めたが1993年にはアンチダンピング措置を取り始めている。貿易自由化はインドの総輸入を年17.4%増加させる効果をもたらしたが、アンチダンピング措置は総輸入を年6.8%抑制する効果を持っている。また、ブラジル1988年に貿易自由化に取り組み始めたが1989年にはアンチダンピング措置を取り始めている。貿易自由化はインドの総輸入を年34.6%増加させる効果をもたらしたが、アンチダンピング措置は総輸入を年5.9%抑制する効果を持っているといった風である。

詳しくは、Vandenbussche, Hylke and Maurizio Zanardi (2010), “The Chilling Trade Effects of Antidumping Proliferation”, European Economic Review, forthcoming で述べられています。