中韓FTA交渉開始へ
FTA/EPAと投資協定で触れた去年末から始まった日中韓3国のFTA交渉だが、結局中国と韓国で交渉に入ることになった。
日本経済新聞2012年5月2日付3面より
中韓FTA交渉入りへ、日本、蚊帳の外、スピード優先、韓国動く。
中国と韓国が自由貿易協定(FTA)交渉の開始で最終調整に入った。輸出市場の拡大を狙う韓国が先手を打って中国を取り込み、日中韓3カ国のFTA交渉を目指す日本は「蚊帳の外」に置かれつつある。日本は環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加でも国内調整に手間取っており、自由貿易圏作りで韓国に大きく後れを取りかねない。
(中略)
3カ国の交渉に見切りを付け、中国との交渉に走った韓国。変心の理由は日本の鈍さだ。
「中国に対応するためにも、まず日韓の連携から……」と、秋波を送り続けた日本。だが最近の韓国は「意欲の割に成果が出てこない」(通商交渉本部幹部)と受け止めていた。経済連携協定(EPA)交渉の再開をめぐる実務者協議はなかなか進まず、非関税障壁の撤廃などでも明確な回答が得られない。
しびれを切らした韓国は迅速に妥結できそうな中国との交渉に絞り込んだ。青瓦台(韓国大統領府)高官は「韓中のFTA交渉が始まれば、韓中日への意欲は落ちる」と冷ややかだ。日本の鈍さだけが理由ではない。国際競争力の向上という実利も韓国を動かした。
韓国にとって中国は最大の輸出先。金額ベースで中国向けは4分の1を占め、米国や欧州連合(EU)の2倍以上にのぼる。日中韓3カ国の交渉を後回しにできれば、中国への輸出拡大で日本に先んじられる。韓国がFTAを発効済みの米国やEUとは、日本は交渉にさえ入れていない。国内調整にもたつく日本を尻目に、韓国は輸出比率で全体の6割を自由貿易圏に組み込める。
日本が何も決められないうちに、韓国と中国は着々とFTAネットワークの拡大に乗り出しています。日本はTPPにも正式参加できず、中国と韓国にも置いていかれる展開になってしまうと、どんどん国際競争力を不利にしていってしまいます。
もちろん、その影響は大きいです。同記事内で、中韓FTAの実現が中国における日本の輸出競争力の低下と日本企業の韓国への投資の促進をもたらすことが指摘されている。
日本貿易振興機構(JETRO)によると、中韓FTAにより韓国製品が中国国内で他国商品に取って代わる金額は約173億ドル。この3割、53億ドルが日本製品だ。先手をとった韓国が着々と中国市場を開拓し、日本企業からシェアを奪う未来図が浮かぶ。
韓国が欧州連合(EU)とFTAを結んだのを受け、現代自動車は小型車だけでなく中型車も欧州に輸出し、攻勢をかけた。中韓FTAをテコに中国でフルラインの品ぞろえをするようだと、最大市場の中国で日本勢は見劣りする。
一方、高機能素材の分野では日本だけで生産する体制を止めて韓国に進出し、コスト競争力を高める動きも出ている。旭化成や帝人はリチウムイオン電池の主要部材のセパレーターの工場を韓国に建設。住友化学はスマートフォン(高機能携帯電話)向けタッチパネルの韓国工場を近く稼働させる。中韓FTA締結は中国への販売を増やす機会となりうる。
もちろん中韓FTAがすんなり成立するとは限らない。次の日の日本経済新聞7面では、中韓FTAの交渉の段取りについて次のように述べられている。
中韓は5月中に交渉に着手し、大きく2段階に分けて協議を進める。まず互いに市場開放による国内産業への影響が大きいと懸念される「敏感」品目に関し、関税撤廃対象からの除外といった保護策を協議。双方が満足できる内容にならなければ「先には進まない」(韓国通商交渉本部幹部)という段取りを描く。
コメなどの農水産物をできる限り守りたい韓国が国内の反対論も意識して強く働き掛けた「安全装置」(同)。ただ中国は韓国が輸出拡大を期待する「石油化学や自動車などの製造業」(陳商務相)を敏感分野ととらえており、交渉がもつれる可能性はゼロではない。
このように中韓それぞれに保護したい分野を抱えているままで、すんなりFTAが成立するとは思えないし、例え成立したとしても大した内容にならないかもしれないが、交渉に向かって真剣に取り組むだけでも日本とは大きく違っていると言える。
今日はこの辺で