新興国における国際資本移動規制について

VOXよりRegulating capital flows to emerging markets: Design and implementation issuesを読みました。

 世界金融危機以後、韓国やブラジルなど新興国では、外国からの資本流入に対して課税の強化などの規制を強めている。これは、金融危機後、先進国から余剰資金の流入が増えたため、自国通貨の増価や国内経済の過熱(バブル化)が懸念されているためである。

 アジアの国々や中南米など多くの新興国では、80年代から90年代にかけて外国資本の受け入れと金融市場の自由化を行ってきた。このような外国資本受入れの自由化は、外国資金の流入によってこれら新興国の経済成長を促進させた一方で、急激に流入した資金が景気後退などの要因で一斉に引き上げることによる通貨危機の原因ともなり、97年のアジア通貨危機などの通貨危機が90年代から2000年代初頭にかけて頻繁に起こることになった。このため、新興国は外国からの資金の流入が急速に増加することに対して警戒を抱いているわけだ。

 このような新興国による外国資本流入規制の強化は、国際資本市場の自由化の動きに逆行するものだ。経済学において、政府による市場の規制が正当化されるのは、何らかの市場の失敗があるときだ。今日紹介するBlog記事の筆者である米国メリーランド大学のAnton Korinekは新興国による外国資本流入規制を正当化する根拠として、資本市場への大量の資本流入がもたらす外部性を挙げている。
 このような資本市場における外部性は、各経済主体が自らの行動が市場全体の安定性を損なうリスクを無視することによって起こる。例えば、バブル経済が発生するとき、各経済主体が一斉に金融資産を購入することによって資産価格はどんどん上昇していく。このような資産価格の急騰は、将来起こるバブル崩壊のリスクをどんどん引き上げていき、最終的にバブルは崩壊し、経済全体に大きな打撃を与えることになる。金融市場の安定性を考える場合、各経済主体が必要以上な金融資産の購入を抑制し、資産価格を安定させる方が経済全体からみると合理的な行動だと思われる。しかし、各経済主体は自分の起こす行動が市場全体に及ぼす影響は小さいものと考えているため、市場全体のリスクが増すことを無視して、試算価格上昇のトレンドに乗っかって金融資産を購入していくことを選択することが合理的な行動となる。すべての経済主体がそのように行動するとき、金融市場は過熱していきバブル崩壊のリスクはどんどん増していくことになる。これは一種の囚人のジレンマのようなものだと考えられる。
 バブル崩壊のときは逆のメカニズムが働く。各経済主体が一斉に資産を売却するとき、資産価格は下落していき、それによって各経済主体の抱える損失は膨らんでいくことにある。このため、金融市場全体の安定化のためには、各経済主体が資産の売却を控えることが望ましい。しかし、各経済主体は自らの資産売却が資産価格全体に与える影響を無視して行動することによって、資産価格を売却することを選択することが合理的な行動となるのだ。
 このような、各経済主体が自分の及ぼす行動が市場全体に与える影響を無視することによって発生する外部性を防ぐためには、政府が金融市場に規制をかける必要がある。新興国が外国資本流入に対して規制を行うのもこれと同じ理屈だ。
 Korinekは、新興国にとって、このような外部性は金融資産の種類によって異なると述べている。一番外部性のリスクが高いのはドル建て債券であり、次がCPI(消費者物価指数)連動型の債券、そして自国通貨建て資産が続き、最も外部性のリスクが低いのは直接投資などによる実物資産に対する投資だ。 Korinekは、これら金融資産ごとによるリスクの違いを考慮した資本規制を行うことによって、金融市場の安定性がもたらされ、新興国の経済厚生は増すのだと述べている。

 去年から続く新興国における外国資本に対する規制強化の流れは、今年に入ってからも続いているが、このような国際資本移動に対する保護主義的動きに関する研究は今後次々と出てくるのではないかと思われる。

今日はこの辺で