日本企業の海外アウトソーシングの実態
RIETI(経済産業研究所) Policy Discussion Paper Sereies 10-P-020 日本企業の海外アウトソーシング‐‐‐ミクロ・データ分析‐‐‐を読みました。
(要旨)
激化する国際競争の中で、情報通信技術の発達・普及、貿易・投資の自由化等を背景に、企業は、低コストの供給源を求めて発展途上国にまでサプライ・チェーンをグローバルに伸ばしている。部品・中間財の生産にとどまらず、かつては専ら企業の内部で行われていた管理的な業務まで、外国に、しかも社外に移転され、旧来の貿易統計や国際収支統計だけでは把握し切れない状態になっている。こうしたことから、RIETI において、日本企業の海外アウトソーシングに関する独自の調査を行い、現状把握を行うとともに、その調査結果を活用して経済分析を進めた。
今回の調査によれば、日本の製造業における中堅・大企業で海外にアウトソーシングを行っている企業は、5年間で大幅に増加したとはいえ、およそ5社に1社の割合にとどまる。仕向先としては、中国が過半を占め、ASEAN が次ぐ。対象業務は部品製造や最終組立が中心で、サービスのアウトソーシングは未だごく限られている。相手先企業のうち4 割は自社の海外子会社が占める。今後、海外アウトソーシングを拡大していくには、海外企業に関する情報提供の充実、中国現地企業の技術力向上、現地国のサービス関連規制緩和等が重要であると企業は認識していることもわかった。
また、今回調査のミクロ・データを用いた分析の結果、海外アウトソーシングの結果として企業の生産性が有意に向上していると見られること、海外アウトソーシング相手として自社の海外子会社を選択する企業は資本集約的であることなどが明らかになった。これらの実証分析結果は、企業の異質性に着目した「新新貿易理論」を企業レベルで直接に検証する試みと位置付けられる。
この論文は、日本企業による海外アウトソーシングの実態をミクロデータを基に行ったものである。
調査対象となった日本企業の内、部品・中間財の生産もしくは情報サービスや研究開発活動などのサービス業務のなんらかをアウトソーシング(外注:子会社もしくは他社に委託)している企業の割合は63%であり、そのうち海外にアウトソーシングしている企業の割合は21%であり、5年前の15%から6%上昇していることがわかった。
さらに、海外にアウトソーシングしている企業のうち、約4割の企業は自社の海外子会社にアウトソーシングしており、残りは海外の他企業に業務をアウトソーシングをしている(日系企業約15%、海外他社約45%)。
近年の「新新貿易理論」によると、産業内の企業の内、生産性の高い企業ほど海外アウトソーシングを行う誘因をもつことが示されているが、実際にアウトソーシングしている企業とそうでない企業の生産性を比較すると、理論の予想通り海外アウトソーシングを行っている企業の生産性は行っていない企業を上回っていることが示されている。
そのことを示しているのが下図だ。
この図は2001年時点で自社の海外子会社にアウトソーシングしている企業(offshore insourcing)、海外の他企業にアウトソーシングしている企業(offshore outsorcing)と海外アウトソーシングを行っていない企業(non-offshoring)の生産性比較とその推移を示したものである。
これを見ると、海外子会社にアウトソーシングしている企業が最も生産性が高く、海外他企業にアウトソーシングしている企業がそれに続き、海外アウトソーシングしていない企業が最も生産性が低いこと、そしてこれらの企業間の生産性の差は時がたつごとに拡大していることが分かる。
このことより、生産性の高い企業ほど海外アウトソーシングを行うのみではなく、海外アウトソーシングが生産の効率化を通じてアウトソーシング実行企業の生産性を向上させていることが示されている。
以前「移民(外国人労働者)の雇用やオフショアリングの増加がネイティブの雇用に与える影響」で、オフショアリング(海外アウトソーシング)の増加は企業の生産性の増加を通じて屋内の雇用の拡大につながるという研究を紹介したが、今回紹介した論文より、日本企業のアウトソーシングの増加が生産性の拡大を通じて日本の雇用拡大に貢献している可能性があることが予想される。
さらに、アウトソーシングを行っている企業のうち、自社の子会社にアウトソーシングしている企業の方が、海外他社にアウトソーシングしている企業に比べて資本集約的であることもわかっており、このことも「新新貿易理論」の理論分析の結果を裏付けていることが示されている。
今日はこの辺で