グローバリゼーション・パラドクスの訳本を出しました

グローバリゼーション・パラドクス: 世界経済の未来を決める三つの道

グローバリゼーション・パラドクス: 世界経済の未来を決める三つの道

同じ滋賀大学の柴山先生と共訳したダニ・ロドリック(著)の『グローバリゼーション・パラドクス』が白水社より発売されました。
訳本を手掛けたのは初めてなので、訳そのものにはあまり自信はないのですが、内容には自信があります(内容が素晴らしいと思ったから訳したわけですから)。
ダニ・ロドリックはつい先日までハーバード大学の教授でしたが、現在はプリンストンに在籍する優秀な研究者です。

この本は、彼自身の研究のみならず国際貿易、国際金融、開発政策、政治学などの近年の政治経済学の研究に基づいて書かれた一般書であり、国際貿易、国際資本移動の自由化が国内にもたらす社会的コストを示すことによって、各国の政策余地を奪う形でのグローバリゼーションの追求がもたらす弊害について述べられています。
貿易や国際資本移動(国際金融・国際投資)における取引コストを徹底的に引き下げる形のグローバリゼーションの推進(ハイパー・グローバリゼーションの追求)は、各国がそれぞれの国内事情に応じた独自の経済政策を行う余地を狭め、そのことによる社会の不安定化が最終的には国内事情を優先する政府によるグローバリゼーションの放棄(極端な保護貿易政策の導入など)につながってしまう可能性があるとロドリックは警告しています。
徹底したグローバリゼーションの追及が、本来グローバリゼーションの恩恵を被るはずの民衆からの支持を失う結果となり、最終的には国内事情を優先する政府によってグローバリゼーションが後退してしまう、これが彼の言う『グローバリゼーション・パラドクス』なのではないかと思います。

ロドリックは、より良きグローバリゼーションのためには、徹底した貿易・国際資本移動の自由化や国際的な制度・ルールの統一ではなく、各国が国内事情に応じた政策を採る余地を残した緩やかなグローバリゼーションが必要だと述べています。つまり、国内事情に応じた保護貿易政策の余地や国際資本移動に対する規制(トービン税)などを許容することによって、グローバリゼーションは各国の国内事情と調和して持続可能なものとなるというのです。

このような彼の考え方にはもちろん賛否があるでしょうし、彼の示した最終的な解決策にも問題点はたくさんあるかと思います。しかし、グローバリゼーションの在り方、そしてより良い世界経済とはどういうものかを考える際に、この本は一つの指針を人々に与えるものだと僕は強く思っています。

国際経済学を勉強する人、もしくは世界経済の未来に関心のある人には是非読んでいただきたいです。

今日はこの辺で